冬でも発生が見られるマダニ媒介性感染症 SFTS

病気

マダニから来る感染症で人が亡くなったというニュースを見たことがある方も多いのではないでしょうか。

国内では2013年に初めてSFTSの患者が報告され、徐々に報告件数は増えています。

毎年のように何かしらニュースを見かけるようになりましたね。

動物病院でも「マダニが怖いから…」とマダニの駆虫薬を購入される方は近年多く、飼い主さんの予防意識が高まっていると感じます。

SFTSという言葉は聞いたことがあるけどあまり詳しく知らないと言う方のため、また私自身の知識のアップデートのためもありますが、本日はSFTSについてまとめてみようと思います。

SFTSとは

まずはじめに、SFTSは重症熱性血小板減少症候群(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)の略で、マダニが媒介するウイルス性の感染症です。

2011年に中国の研究者らにより発表されました。

SFTSウイルスに感染しているマダニから人や動物に感染するだけではなく、発症した動物から人への感染も報告されている人獣共通感染症です。

人から人(患者から医療従事者)への感染も報告されています。

感染症法では4類感染症に分類されています。

ちなみにSFTSウイルスの分類はブニヤウイルス目フェヌイウイルス科バンダウイルス属ダビエバンダウイルスで、マイナス1本鎖RNAウイルスです。

ウイルスの分類は国家試験で問われることがあるので学生の時に少し覚えましたが、私が大学の時に習ったウイルスの分類とは少々変わったようです。新しいウイルスが出てきたりで分類は時々変わるので、覚えるのが大変になっていきますね。

世界のどこで発生している?

日本、韓国、中国、台湾、ベトナム、タイ、ミャンマーで発生が確認されています。

国内では2020年までは西日本に限局していましたが、2021年には静岡や千葉でも報告され、徐々に発生地域は広がっています。

SFTSを媒介するマダニ

日本には40種以上のマダニが生息していますが、その中でも少なくともフタトゲチマダニ、キチマダニのSFTS媒介性が証明されているほか、タカサゴキララマダニ、ヒゲナガチマダニ、オオトゲチマダニからもSFTSウイルスが検出されています。

フタトゲチマダニがいたとしても、全てのフタトゲチマダニがSFTSウイルスを保有しているわけではなく、ウイルス保有率は0〜数%程度と言われています。

シカ、イノシシ、タヌキ、アライグマなどの野生動物にはSFTSの抗体を持っている個体がいることがわかっており、野生動物とマダニの間で生活環が形成されていると考えられます。ウイルスを持ってないマダニは感染した野生動物の血を吸うことでウイルスを保有します。

ちなみにマダニはダニの一種ですが、よく家の中にいるダニとは異なります。

家の中にいるダニは目に見えませんが、マダニは肉眼で見ることができます。

例えば、フタトゲチマダニの体長はオスで2.5㎜、メスで3.0㎜です。
吸血するとさらに大きくなります。

症状と致死率

猫では元気・食欲低下、発熱、白血球減少、血小板減少、黄疸、肝酵素上昇、嘔吐、下痢、CPK(クレアチンキナーゼ)上昇、SAA(炎症マーカー)上昇、神経症状(意識の消失や痙攣など)などが報告されています。

犬でも元気・食欲低下、発熱、白血球減少、血小板減少、肝酵素上昇、CRP(炎症マーカー)上昇、嘔吐、下痢などが報告されていますが、猫よりは症状が出ないと考えられています。

犬よりも猫での報告が明らかに多く、しかも猫は重症化しやすい傾向があります。約6割の猫が死亡します。

診断

症状と、マダニに咬まれた可能性があること、類似の病気が否定された場合にはSFTSが疑われます。

急性期であればウイルスの遺伝子検査、回復期であれば抗体価の測定を行います。

動物病院の中でできる検査ではなく、検体を採取して専門の検査機関へ送って調べてもらうことになります。

SFTSが疑われた時点で、動物は入院管理が推奨されます。

これは入院して治療するほど重い症状が出る可能性があることもそうなのですが、飼い主さん、同居動物、近隣の住民などへの感染の拡大を防ぐためでもあります。

ウイルス遺伝子検査が2回続けて陰性になるまで入院が推奨されます。

治療

有効な治療法は確立されていません。

点滴など対症療法を行います。

発症から約7日でピークを迎え、猫は約6割がそれまでに亡くなってしまいます。

回復した例では発症から7日目以降で白血球数、血小板数、SAA(炎症マーカー)が改善し始める傾向があるようです。

ただし、ウイルスの排泄は2〜3週間程度は続くとされているため、回復後も注意が必要です。

消毒・防御

感染した犬猫の血液、唾液、糞尿などにはウイルスが大量に排泄されます。体液全てに素手で触れないよう注意が必要です。

70%アルコールや0.5%次亜塩素酸ナトリウムで消毒します。

感染動物と接触する場合は防護具の装着が必要になります。

帽子、ゴーグル、フェイスシールド、マスク、手袋、ガウンなどを着用します。

予防

まずはマダニに咬まれないようにすることが予防につながります。

草むらなどマダニがいそうな場所に犬猫を行かせないようにしましょう。

マダニの駆虫薬も複数販売されていますので、定期的に使用することをおすすめします。

特に春から秋はマダニが活発な時期ではありますが、SFTSは冬でも発生が見られていますので、駆虫薬は1年を通して使用することが推奨されています。

その他、犬猫の体表をブラッシングしてあげることもマダニの駆除に役立ちます。

散歩から帰った時などにブラッシングしてあげることで、マダニが皮膚に咬みつく前に除去できるかもしれません。

もしも皮膚にくっついているマダニを発見したら、無理に引っ張って取らないようにしてください。ちぎれてマダニの一部が皮膚の中に残ってしまうことがあります。

今のところSFTSのワクチンはありません。

飼い主さんも草むらに入る時は長袖、長ズボンを着用するなどして肌の露出を避けましょう。

完全室内飼いの動物から人にSFTSがうつった事例は今のところありませんが、動物を触ったあとは手を洗うこと、口移しでフードを与えるような過剰な接触はしないことなどはおすすめします。

また屋外で野生動物に接触したり、野生動物の死体に接触することは避けましょう。

肉や乳製品を食べたことで人が感染したという事例は今のところありません。ウイルス抗体を持つ動物を食べても問題はないですが、野生動物を捕獲して処理・加工する際はしっかり加熱調理しましょう。

マダニと接触してしまった場合、人での潜伏期間は6〜14日とされていますので、2週間は健康状態に注意してください。

引用

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)(国立感染症研究所)

国内外における重症熱性血小板減少症候群の発生状況について(国立感染症研究所)

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について(厚生労働省)

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