この春に外で生まれた子猫をちらほら見かけるようになりました。
先週は生後1週間のまだ目も開いていない子猫を診ました。
体重120gでした。手のひらサイズでめちゃめちゃ可愛いかったです。
今週は生後2カ月ほどの子猫を3匹ほど診察しました。
ちょっとやんちゃになってくる頃ですが、その子たちは風邪気味でした。
生後2ケ月というと母親から授かった免疫力(母子免疫)が低くなってくる頃で感染症にかかりやすくなります。
1回目の混合ワクチン接種にちょうどいい時期です。
時々患者さんから混合ワクチンをうったほうがいいですか?と質問を受けます。
先に答えを言うと、
はい。接種をおすすめします。
抵抗力の弱い子猫は特にワクチンを接種しておいた方がいいです。
成猫になって、家から一歩も出ないとしても、ワクチンはうっておくことをおすすめします。
人が体にウイルスをつけて家の中に運んでしまうこともあり、完全室内飼いの猫ちゃんでも感染症にかかることがあります。
網戸越しに野良猫と接触し、その後に風邪症状が出たと診察に連れて来る方もいるので、やはりそういう場合も感染症を予防するためにワクチン接種をおすすめします。
では、ワクチンでどのような感染症が予防できるのでしょうか。
今回は現在国内でワクチン接種により予防できる5つの感染症について、前編・後編に分けてお話したいと思います。
まずは前編、2つの感染症について解説します。
猫ウイルス性鼻気管炎
猫伝染性鼻気管炎ということもあります。
猫の上部気道感染症(猫風邪と言ったりします)を起こすウイルス性感染症のひとつです。
母子免疫が弱くなる生後6~12週齢の子猫に多く発生する印象があります。
実際に臨床現場ではウイルスを同定するところまではやらないことがほとんどだと思います。
症状からヘルペスウイルスが関係していそうだぞと思って治療を始めます。
他のウイルスや細菌と混合感染している可能性があるので、はっきりと鑑別は難しいです。
混合感染している場合を含め、よく遭遇する感染症の一つだと思います。
猫ウイルス性鼻気管炎の原因
猫ヘルペスウイルス1型(猫ウイルス性鼻気管炎ウイルス)というウイルスが原因となります。
感染した猫のくしゃみや鼻水から飛沫感染します。
ウイルスは粘膜から神経に入り込み、神経細胞に潜伏感染します。
人でも同じですが、ヘルペスウイルスの特徴の一つがこの潜伏感染です。
一度感染すると回復後も体内に潜伏し続け、ストレスがかかるなどで免疫力が弱くなった時に再び出てきて症状を引き起こします。
猫ウイルス性鼻気管炎はネコ科動物の感染症であり、犬や人には感染しません。
猫ウイルス性鼻気管炎の症状
鼻水、くしゃみ、目ヤニ、結膜炎、発熱、食欲不振、元気消失などの症状がみられます。
他のウイルスや細菌との混合感染により、さらに症状が重くなります。
子猫では症状がひどくなりやすく、しばしば致命的になります。
妊娠している猫が感染すると流産する可能性があります。
猫ウイルス性鼻気管炎の治療
抗菌剤投与、栄養補給、点眼(イドクスウリジンなど)、インターフェロン投与、補液などを行います。
※インターフェロン…抗ウイルス活性をもつ蛋白です。
猫ウイルス性鼻気管炎の予防
ワクチンの接種が有効です。
しかし、ワクチンの接種で体内のウイルスが消える訳ではないです。
ワクチン接種によって猫風邪にかからなくなる訳でもないですが、症状が出ても軽く済ませることができます。
新型コロナウイルスのワクチンと同じですね。
ワクチンをうっても感染したが症状が軽く済んだという方もいるのではないでしょうか。
すでに感染している可能性があっても、ワクチンの接種をおすすめします。
感染力が強いので、多頭飼育の場合は、他の猫と隔離してください。
発症した猫をお世話した後に他の猫を触る場合も、しっかりと消毒をしましょう。
ウイルスが体に付着しているかもしれません。
ちなみにヘルペスウイルスにはアルコールが効きます。
猫カリシウイルス感染症
これも猫の代表的な呼吸器感染症のひとつです。
猫カリシウイルス感染症の原因
猫カリシウイルスの感染が原因となります。
ネコ科動物の感染症なので、人や犬には感染しません。
感染した猫のくしゃみや鼻水、汚染された食器などから経口・経鼻感染します。
感染した猫は回復後も数週間から数か月、場合によっては一生涯ウイルスをを排出し続けることがあり、他の猫への感染源となります。
感染力は非常に強く、ウイルスの環境抵抗性も強いです。
常温で1か月以上、低温であればさらに長期間感染力を保持し続けるため注意が必要です。
猫カリシウイルスは株間に抗原性の相違が認められており、交差防御も成立しにくいと言われています。
そのため、一度感染して回復しても、抗原性の異なる株に再感染し、発症する可能性があります。
人でインフルエンザA型にかかって回復したのに、同じ年に今度はインフルエンザB型にかかったという話を聞いたことがありませんか?
インフルエンザワクチンを接種したのに接種した型とは別の型に感染したという残念な話も聞きます。
同じインフルエンザと言っても型が違えばまた感染してしまいます。
インフルエンザウイルスはウイルスの中でも特に遺伝子組み換えが起きやすいウイルスなので、カリシウイルスと比較するのはちょっと違うかもしれませんが、要は型が違えば再度感染してしまうという話です。
猫カリシウイルス感染症の症状
鼻水、くしゃみ、目ヤニ、口の中や舌に水疱・潰瘍形成など。
重症化すると間質性肺炎に移行することもあります。
また、滑膜の肥厚と滑液の増加を伴う跛行が認められることもあります。
子猫の体が熱く、食欲不振で風邪っぽく、びっこも引いているという診察を実際に何度かしたことがあります。
高い所から落ちたわけでもなく、他の猫と喧嘩したわけでもないのにびっこを引いていますと言われました。
風邪症状の緩和と共にびっこもなくなりました。
二次感染が起きなければ、1週間程度で回復し始め、2~3週間で治ります。
比較的予後は良好ですが、症状が消えた後もキャリアとなり持続的にウイルスを排泄します。
症状から猫ウイルス性鼻気管炎や猫クラミジア症と鑑別することは、混合感染も起こしていることがあるので困難ですが、風邪っぽい上に口腔内潰瘍などの症状があれば猫カリシウイルスの関与を強く疑います。
ちなみに慢性の歯肉口内炎を呈する猫からは高確率で猫カリシウイルスが分離されるという報告があり、関与が疑われています。
猫カリシウイルス感染症の治療
抗菌剤投与、点眼、インターフェロン投与、栄養補給などを行います。
カリシウイルスの環境抵抗性は比較的高いため、消毒をしっかりと行ってください。
アルコールでは効果が不十分です。塩素系消毒薬での消毒をおすすめします。
これは少し余談ですが、ウイルスにはエンベロープという構造を持つウイルスと持たないウイルスがあります。
このエンベロープという構造があるウイルスにはアルコールが有効です。
インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスにはエンベロープがあるので、アルコールが効きます。
しかし、カリシウイルスにはエンベロープがありません。
エンベロープが無いウイルスは抵抗性が強く、そう簡単には死にません。
身近なもので言うと、ハイターなどの次亜塩素酸ナトリウムが有効です。
猫カリシウイルス感染症の予防
感染猫との接触を避けることと、ワクチン接種です。
ワクチンはカリシウイルスの感染を防止するのではなく、症状を軽く済ませる効果があります。
現在日本で販売されている猫用混合ワクチンでカリシウイルスの予防が可能です。
製薬会社によって使用している株が異なりますが、カリシウイルスは多様性に富み、変異株も多いため、全ての株に有効なワクチンはないのが現状です。
そのため、回復した猫にも定期的にワクチン接種は継続することをおすすめします。
欧米を中心に、より病原性が強く、全身感染を引き起こす強毒全身性猫カリシウイルスも報告されています。
発熱、皮下浮腫、頭部や下肢の潰瘍、黄疸などの全身症状を呈し、致死率も非常に高いことから、日本への侵入が懸念されています。
前編はここまでです。
次回、後編をお届けします。
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