やっと秋らしくなってきましたね。
毎年秋になるとやや増える病気があります。
タイトルの通り、犬の子宮蓄膿症です。
文字通り、犬の子宮に膿が貯留してしまう病気です。
英語でpyometraというので、略して「パイオ」と言ったりします。
避妊手術していない高齢の犬に起こりやすい病気で、ほとんどが発情出血開始後1~2か月以内に発症します。
そしてほとんどの症例で発情出血中やその直後にシャンプーをしていることが多いと感じます。
今回は犬の子宮蓄膿症についてお話します。
犬の子宮蓄膿症の原因
この病気は細菌感染が原因となります。
細菌が膣から子宮に侵入することで子宮内膜に炎症が生じ、膿が貯留します。
また、プロジェステロン(黄体ホルモン)とエストロジェン(卵胞ホルモン)の感作が発症に関係していると考えられており、特にプロジェステロンの影響で子宮内膜が肥厚増殖し、細菌が感染しやすくなります。
さらに、プロジェステロンは子宮内で白血球の反応を抑制します。
白血球というと外から入ってきた細菌と戦ってくれる細胞です。
白血球が抑制されることにより、余計に細菌が増殖しやすい環境になっているわけです。
プロジェステロンは排卵後に黄体から約2か月間分泌されます。
そのため発情期のあとに子宮蓄膿症は発症しやすいです。
発情出血があるとお尻をキレイにしてあげたいという気持ちになるかもしれませんが、そこでシャンプーをしてしまうと、水と一緒に細菌が子宮へ侵入してしまうため、子宮蓄膿症を発症してしまう危険があります。
発情中及び発情出血が見られなくなってもしばらくの間はシャンプーを控えることをおすすめします。
もちろんシャンプーだけでなく、お尻を拭くときも要注意です。
肛門付近の汚れを膣に運び入れないように気をつけてください。
ちなみに、膿から検出される細菌のほとんどが大腸菌であることが知られています。
特に高齢になってくると、長年繰り返しホルモンの影響を受けてきているので子宮内膜は嚢胞性に増殖していることが多く、さらに若い個体よりも免疫機能が低下してきているので、細菌も増殖しやすく、子宮蓄膿症になりやすいです。
犬の子宮蓄膿症の症状
食欲低下、元気低下、発熱、多飲多尿、嘔吐、腹部膨満などの症状がみられます。
外陰部から膿が出ているという主訴で動物病院へ来るパターンはたくさんありますが、全ての症例で膣から膿が出る訳ではありません。
子宮蓄膿症には膣から膿を排泄する開放性と膿が出てこない閉鎖性があります。
一般的に症状が重くなりやすいのは閉鎖性子宮蓄膿症です。
膣から膿が出ているとい言われると初めから子宮蓄膿症を強く疑いますが、膣からの排膿は無く、「ご飯を食べなくて元気がない」などという様々な病気が考えられる主訴で来院する場合も結構あります。
その場合は飼い主さんも予想外の診断結果に「子宮の病気!?」と驚かれることもよくあります。
未避妊、高齢、発情後1~2か月以内、最近シャンプーをしたなどの条件が当てはまる場合は子宮蓄膿症を疑いながら検査を進めていきます。
症状の重さには細菌が産生する毒素(エンドトキシン)が関係しており、エンドトキシン濃度が高い場合は予後が悪くなりやすいです。
逆にエンドトキシンを産生しない菌が感染している場合は症状が軽いことがあります。
血液検査では白血球数、BUN、CREA、ALP、CRPの上昇がよく見られます。
白血球数は子宮蓄膿症の診断において特に注目される項目の一つですが、必ずしも上がるわけではないです。白血球が正常値の症例も時々みかけます。
最近はCRPという体のどこかに炎症があると上昇するマーカーを簡単に病院内で測定できるようになりました。
白血球数よりもどちらかというとCRPの方が上昇している確率が高いように感じます。
ただし、CRPの上昇は子宮の炎症とは限らないので注意が必要なのですが。
血液検査項目についてのお話もいつかしたいなと考えています。なのでその辺の説明はまたいつか…。
犬の子宮蓄膿症の治療
治療としては卵巣子宮摘出手術が一般的です。
放置すると死亡する可能性がある病気ですので、診断したら緊急手術になることが多いですし、その日に手術できなくてもなるべく早く(次の日とか)手術を行います。
1~2日おいただけでもどんどん具合が悪くなっていくことがよくあります。
衰弱した状態で手術となると麻酔をかけるリスクも上がります。
麻酔をかけただけで亡くなってしまいそうな状態に陥る前に手術することをおすすめします。
症状が軽い場合(子宮蓄膿症になりそうな状態など)やどうしても手術は受けさせたくない場合などは内科治療を行うこともあります。
内科治療を行って落ち着き、手術せずにそのまま寿命を全うした子も見たことがありますが、そういう例は私の経験では少ないです。
ごく軽度の場合は内科治療を試してみましょうとなるかもしれませんが、やはり手術を選択する飼い主さんが多いです。
犬の子宮蓄膿症の予防
タイトルの通り、日頃からできる予防法としては、まずは発情が来たらしばらくシャンプーをしないようにするなど、子宮に細菌感染を起こさせないことです。
もっと確実に予防するなら、避妊手術(卵巣子宮摘出手術)をしておくとこの病気になることはありません。
子宮蓄膿症になってぐったりした状態での緊急手術は死ぬかもしれないという不安でいっぱいです。
一度この病気で怖い思いを経験した飼い主さんは次に新しく犬を飼ったら早めに避妊手術を受けさせる方が多いような気がします。
また、費用的にも避妊手術よりかなりかかってしまうので、もっと早く避妊手術をしておけばよかったと思う飼い主さんは少なくないように思います。
避妊手術も子宮蓄膿症の手術もやることとしては同じ子宮と卵巣の摘出です。
しかし、普通に避妊手術するよりも子宮蓄膿症で手術となると、多分どこの動物病院でも避妊手術の数倍の金額はかかると思います。
2~3倍で済めば安い方だと思います。緊急で手術となると場合によっては避妊手術の10倍くらいかかるかもしれません。
繁殖する予定がないなら早めに手術をしておくのもいいと思います。
高齢になると腎臓が悪かったり、肝臓が悪かったり、いざ避妊手術をしようにも麻酔のリスクが高いことがあります。
高齢の子で心臓、腎臓、胆嚢、膵臓が悪く、さらに未避妊で時々膣からおりものが出て子宮が腫れ気味という状況の子をみたことがあります。
麻酔をかけるにはかなり危険な状況なので、なんとか子宮蓄膿症に発展させないように抗菌剤を投与してもらったり、シャンプーを制限してもらったりして最後まで手術せずに済んだことがあります。
高齢犬は子宮の病気になりやすいので、要注意です。
ですが避妊手術は受けさせたくないという方も多くいるので、その場合は子宮の病気にならないように気をつけてください。
気をつけていてもなる時はなると思いますが、シャンプーのあとに子宮蓄膿症を発症してしまう子はとても多いと感じるので、せめて発情期と発情出血が消えた後も最低1か月間くらいはシャンプーを避けることをおすすめします。
ちなみに犬は人間と違って閉経がありません。
生涯発情出血が定期的にみられます。
ただし、高齢になってくるとその兆候が弱くなってきます。
出血しても犬が自分で舐めてきれいにしてしまったりして、飼い主さんが気づかぬうちに発情が来ていることがあるので要注意です。
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