犬がチョコレートを食べてしまった! チョコレート中毒に注意!

「犬がチョコレートを食べてしまったんですが大丈夫ですか?」

このような電話の問い合わせをよく受けます。

1年中わりと多いです。

もうすぐバレンタインデーがやって来るので2月は増えるかもしれません。

ということで、今日はチョコレート中毒のお話をしたいと思います。

原因と作用機序

チョコレートの原料であるカカオにはテオブロミンカフェインというキサンチン誘導体(メチルキサンチン)が含まれています。

簡単に言うと、キサンチン誘導体は中枢神経と心臓の興奮を引き起こします

ふだんテオフィリンという気管拡張薬を動物病院で処方されているわんちゃんがいるかもしれませんが、テオフィリンもキサンチン誘導体の一つです。

チョコレート中毒の原因はカフェインとテオブロミンという物質であり、チョコレートを食べると中枢神経や心臓が興奮する!

もうこれだけ押さえていただければOKです。

でも折角なのでもう少し掘り下げて書いておきたいと思います。

何を言っているかよくわからん…と思うかもしれませんが、さらっととばして頂いて構いません。薬理学の知識になります。

キサンチン誘導体には中枢神経興奮作用、心臓興奮作用(強心作用)の他、利尿作用、骨格筋収縮作用、平滑筋弛緩作用などがあります。

ちなみにそれぞれの物質の薬理作用は以下の通りです(『獣医薬理学』より)

 大脳皮質興奮骨格筋収縮強心平滑筋弛緩利尿
カフェイン++++++
テオブロミン++++++
テオフィリン+++++++++++++

これらの作用はホスホジエステラーゼ阻害によるサイクリックAMP(cAMP)の蓄積、貯蔵カルシウムイオンの遊離による細胞内カルシウムイオン濃度の増加(筋肉の収縮にはカルシウムイオンが関係しています)およびアデノシン受容体の遮断などから発現します。

カフェインと言えば代表的な飲み物にコーヒーを思いつく方は多いと思います。

眠い時に目を覚ます為にコーヒーを飲む方がいますよね?
カフェインによって眠気がなくなるのは中枢神経系に存在するアデノシン受容体を遮断していることによります。

ここで簡単に用語解説。
・ホスホジエステラーゼ…cAMPやcGMPを分解する酵素。
・サイクリックAMP(cAMP)…細胞内の情報伝達物質。
AMPはアデノシン一リン酸の略です。
ちなみにアデノシン二リン酸はADP、アデノシン三リン酸はATPです。
ATPは聞いたことある方も多いのではないかと思います。
代表的な高エネルギーリン酸化合物です。
動物も植物も微生物も体の中でATPのエネルギーを利用して生きています。

獣医大学ではこのような勉強をします。
カタカナの長ったらしい専門用語が大量に出てきて覚えるのが大変だったりします。
さらに言うと臨床現場に出ると大学で覚えた薬品名と病院で使用する商品名が違うので2倍覚えなければいけません。

はい、脱線しすぎました。元に戻りましょう。

どれくらい食べたら危険?

テオブロミンやカフェインの含有量はチョコレートの種類によって異なります。

ミルクチョコレートよりもダークチョコレートの方が含有量が多いです。

ホワイトチョコレートは非常に濃度が低いのでチョコレートの中では比較的安全かもしれません。

ココアパウダーやカカオ豆は非常に高濃度に含まれているので危険です。

チョコレートに含まれるキサンチン誘導体量
・ホワイトチョコレート・・・0.039mg/g
・ミルクチョコレート・・・1.67mg/g
・ダークチョコレート・・・5.2mg/g
・ココアパウダー・・・28.47mg/g

体重1kgあたりのキサンチン誘導体の中毒量
20mg/kg・・・軽度(落ち着きがなくなる、嘔吐)
40~50mg/kg・・・中程度(不整脈)
60mg/kg・・・重度(痙攣発作)
100~200mg/kg・・・致死量

以上を参考に、例えば体重3kgの小型犬で考えてみましょう。

3kgの犬の場合、キサンチン誘導体60mgの摂取で軽度の中毒症状が出るとしましょう。

まずはホワイトチョコレートでは、キサンチン誘導体の含有量が0.039mg/gとごく少量ですね。

60÷0.039≒1538g

計算してみると1.5kgくらい食べても中毒量には至らないということになります。

これはかなりの量ですね・・・。人でもそんなに食べられませんよね・・・。

ですがチョコレートには脂質が含まれているので、ホワイトチョコレートなら中毒量に至らないからといって食べさせるのはおすすめしません!

興奮作用は出なくても、嘔吐や下痢などの消化器症状が出るかもしれません。
膵炎を発症したりなんかしたら大変です。

ミルクチョコレートの場合は、

60÷1.67≒36g

ホワイトチョコレートとは大きく異なりますね。

市販の板チョコがだいたい1枚50gですので、1枚の板チョコの7割くらいの量で中毒量に達する可能性があるということになります。

続いてダークチョコレートはどうでしょうか。

60÷5.2≒11g

だんだんシビアになってきました。

板チョコの5分の1くらいの量で中毒症状が出るかもしれないということになります。

最後にココアパウダーでは、

60÷28.47≒2g

ココアパウダー小さじ1杯で2gらしいので、ココアパウダーは少量でも危険ということになります!

以上のように種類によって危険な量が全然違うため、チョコレートを摂取してしまった場合はどれくらいの量を食べてしまったかに加えて、どんな種類のチョコレートを食べたかが重要になってきます。

動物病院に行ったり、電話で問い合わせをする際には
・どんなチョコレートを食べたか
・どのくらいの量を食べたか
・食べたのは何分前か
これらの情報をなるべく正確に獣医師に伝えるようにしてください。

チョコレートの中にはマカダミアナッツが含まれているものもあります。

犬にはマカダミアナッツもNGですので気をつけてください。

症状

症状は1~12時間ほどで現れます。

・落ち着きがなくなる

・嘔吐

・下痢(下痢は翌日以降に出るかも)

・多尿

・震え

・ぐったりする

・痙攣発作

など、摂取したキサンチン誘導体の量によって症状に差があります。

チョコレートは脂肪分が多い物もあるので、場合によっては数日経って急性膵炎を起こしてしまうこともあります

治療

チョコレートは胃内に残りやすい食べ物です。

摂取してから3時間以内であれば私は吐かせる処置をすることが多いです。

胃内のチョコレートを早めに回収できた場合は予後良好です。

活性炭(中毒物質を炭に吸着させて便と共に体外へ排出させることで体への吸収を抑える目的)を投与することもあります。

摂取量があきらかに中毒量に満たないと判断した場合や、食べてからかなり時間が経過していて症状も全くない場合(昨日食べたと言われることもあります)は無治療のこともあります。

痙攣発作を起こしている場合は抗痙攣薬を使用しますが、痙攣を起こすほどの重症例に私はまだ遭遇したことはないです。

チョコレートを摂取した時の状況によっては、チョコレートだけではなく、包みのビニール袋ごと食べている子もよくいます。その場合も吐かせる処置をします。

まとめ

カカオに含まれるキサンチン誘導体によって中毒が引き起こされます。

中毒量はチョコレートの種類により異なります。

ホワイトチョコレートなら比較的危険性は低いかもしれませんが、それ以外、特にダークチョコレートやココアパウダーが含まれている場合は中毒を起こす危険が高まるため注意が必要です。

食べてしまったと気がついたら早く動物病院に連れて行くか、電話をして獣医師の指示を受けてくださいね。

チョコレートの誤食は一年中多いですが、2月はバレンタインデーがあるのでチョコレートを食べる機会がふだんよりも多くなるかもしれません。

そんな時にわんちゃんが盗食しないようにくれぐれも気をつけてください。

気をつけていれば基本的には防止できる病気ですので、チョコレートを机の上に出しっぱなしにしない、いたずらされないように届かない場所に片づけておく、チョコレートを含んだ食べ物(パンやクッキーなど)も同様に注意していただき、事故が起こらないようにしましょう。
時々ゴミ箱をあさって食べてしまう子もいるので注意です。

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