犬がガチョウの鳴き声の様な咳をしている!

morineko
morineko

今日はどうされましたか?

飼い主
飼い主

なんか咳をしてて…

morineko
morineko

どんな感じの咳ですか?

飼い主
飼い主

ガーガーいう感じの咳です

morineko
morineko

ガチョウの鳴き声みたいな?

飼い主
飼い主

あぁ!そうです!

こういう会話が時々あります。

どんな咳か問診をとらなくても、目の前で「ガーガー」とわかりやすく咳をしてくれる子もいます。

飼い主さんによっては動画を持参される方もいます。
(咳に限ったことではありませんが、診察室では症状がみられないこともあるので動画があるととても助かります)

犬がガーガーとガチョウが鳴いている様に咳をしている場合、一番に疑うのは気管虚脱という病気です。

簡単に言うと、気管がつぶれて扁平になってしまう病気です。

今日は気管虚脱についてお話していきます。

気管虚脱とは

気管軟骨輪が変性し、気道が背腹方向に扁平化し、背側の気管膜が弛緩して気道内腔に垂れ下がった状態をさします。

側方につぶれている可能性もありますが、自然発生例ではほぼ背側方向につぶれます。

主に6~8歳の中年齢の小型犬でみられることが多い病気です。

例えば、ヨークシャーテリア、トイプードル、ポメラニアン、マルチーズ、チワワ、パグなどは飼っている人も多いためかよく見かける気がします。

他にも狆、スピッツ、シーズー、ペキニーズなど、小型犬種や短頭種に起こりやすいと言われています。
大型犬でも起きる可能性はありますが、あまり見かけないです。

性差は報告されていません。

中高齢の次に幼犬で多いとされています。

しばしば気管支も虚脱することがあります(気管支軟化症と呼ばれることがあります)。

気管虚脱の原因と病態

原因はまだはっきりわかっておらず、遺伝性、栄養性、神経性、炎症性などの説があります。

ただ、小型犬に好発することから、遺伝性が強く疑われています

気管虚脱の犬では、気管輪を形成する硝子様軟骨の成分であるグリコサミノグリカン、グリコプロテイン、コンドロイチン硫酸塩が健常な気管輪と比べて減少しており、軟骨の堅さが弱くなっています。

軟骨の脆弱化により、平滑筋で構成されている背側の気管膜も垂れ下がり、気管内腔が扁平化します。

虚脱する部位により、頸部の気管が虚脱する頸部気管虚脱と胸腔内の気管が虚脱する胸腔内気管虚脱があります。

頸部気管虚脱は吸気時に、胸腔内気管虚脱は呼気時に発生します。

気管虚脱にはグレード分類があり、外科手術の必要性を検討するときに参考にします。

  • グレードⅠ…25%以下の気道内腔径の減少
  • グレードⅡ…50%の気道内腔径の減少
  • グレードⅢ…75%の気道内腔径の減少
  • グレードⅣ…気道内腔径が正常の10%以下に減少

気管虚脱の症状

最も特徴的な症状は「ガチョウの鳴き声」と表現される乾性の咳です。

しばしば気道内の分泌物を吐き出そうと開口し、吐き気様の症状もみられます。

気管虚脱の場合は咳を咳だと認識している飼い主さんが多いですが、心臓病に起因する時などでは咳だと気づかずに「吐こうとしているけど何も出ない」という主訴で動物病院へいらっしゃる場合もあります。

興奮時、運動時、首輪による圧迫時には咳が出やすいです。

重症化すると、運動不耐性となり、チアノーゼ、高体温、呼吸困難、失神などがみられることがあり、死に至ることもあります。

咳が続くことにより、気道内上皮の炎症、上皮細胞の剥離と粘液線毛クリアランスの欠如に伴う粘液腺の過形成を起こし、痰を伴う湿性の咳をするようになります。

気管虚脱の診断

レントゲンを撮ります

横向きで吸気時と呼気時の2回撮影して評価するのが一般的です。

正常であれば吸気時でも呼気時でも気管に変化は見られませんが、頸部気管虚脱であれば吸気時に、胸腔内気管虚脱であれば呼気時に気管が扁平となる画像が得られます

しかし、一般的なレントゲン撮影での気管虚脱の診断の感度は100%ではありません。

安静時では虚脱が見られないこともあります。

ちなみにグレードⅠくらいだとレントゲンで見てもあまりわからないかもしれません。

動物病院によってはリアルタイムで気道の変化を評価する透視X線検査を実施しているところもあります。

また、鑑別診断には喉頭麻痺、軟口蓋過長症、慢性気管支炎、伝染性気管気管支炎、犬糸状虫症、心疾患、肺疾患、気管内異物、腫瘍などがあります。

気管虚脱の治療

治療法は大きく外科治療と内科治療に分けられます。

外科治療

外科治療には、人工物を気管内に挿入するステント法や気管外に巻き付けるプロテーゼ法があります。

外科治療はグレードⅢ以上の症例で考えることが多いです。

根治が期待でき、もっと早い段階で手術した方がいいという考えもありますが、合併症が出る可能性もあり、気管虚脱があるからといってすぐに外科手術をすすめるかというとそうでもないです。

ある報告によると、6歳未満で手術した方が6歳以上で手術するよりも有意にQOLが改善したそうですが、術後4割近い子に発咳、呼吸困難、喉頭麻痺などの合併症が観察されたそうです。

その頃よりも治療成績は上がっていると思いますが、簡単にはすすめにくいですし、気管虚脱の手術ができる動物病院も少ないように思います。

内科治療を行う子が圧倒的に多いです。

内科治療

内科治療の目的は根治治療ではなく、咳の軽減や消失を目的とする対症療法です。

以下のような方法があります。

  • 鎮咳薬
  • 気管拡張薬
  • 消炎剤(ステロイド)
  • 鎮静剤(興奮により咳が誘発されてしまうので、興奮を抑制させることも有効)
  • 酸素吸入
  • 体重管理(肥満の場合は減量)
  • 首輪を胴輪に変える
  • 抗菌剤(長期に及ぶ咳により二次感染があるとき)
  • 去痰剤
  • 関節サプリメント
  • 運動制限

内科治療でコントロールできる場合の予後は良好です。

コントロールできない場合には早期に外科手術を検討する必要があります。

進行性の病気ですので、気管虚脱かもと思ったら放置せずに動物病院で診察を受けることをおすすめします。

気管虚脱でないとしても、もし犬が咳をしたり、痰を吐くような動作をしている場合は、何か病気の可能性が高いと思います。

一度診察を受けてください。

診察室で症状の再現性が無い場合もあるので、動画を撮っていくといいですよ。

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