狂犬病ってどんな病気? なぜ国内で発生してなくてもワクチンはうたなきゃダメなの?

注射器を見つめるヨークシャーテリア

春は動物病院が1年で一番忙しい時期です。
なぜなら狂犬病予防接種の時期だからです。

犬を飼っている全ての飼い主さんは狂犬病予防接種を犬に受けさせなければなりません

ということで、今回は狂犬病に関して書いてみようと思います。

狂犬病の病原体は?

狂犬病ウイルスの感染によって起きる病気で、発症するとほぼ100%死亡する恐ろしい病気です。

狂犬病ウイルス
モノネガウイルス目、ラブドウイルス科、リッサウイルス属
特徴的な弾丸状の形態
エンベロープ+
マイナス1本鎖RNAゲノム

覚える必要ありませんが、獣医の学生にとってはこれが超重要な情報だったりします(笑)
テストによく出ます。
これを知らずに獣医師国家試験を通る人はいないんじゃないかな。

狂犬病の発生状況

少数の地域を除いて全世界に分布しています。

日本は幸いその少数の地域に含まれています。
つまり、現在国内では狂犬病は発生していません
(他にはイギリス、オーストラリア、ニュージーランド、スカンジナビア半島、ハワイなどが清浄国)

日本で普段生活していると狂犬病を意識することはあまりないと思いますが、海外ではほとんどの地域で発生している病気ですので、海外旅行へ行ったときは注意が必要です。

1957年の猫での発症を最後に日本での発生はありませんが、海外旅行中に犬に咬まれて帰国後に発症した事例が1970年にネパールからの帰国者で1例、2006年にフィリピンからの帰国者で2例、2020年にフィリピンからの帰国者で1例あります。

感染する動物は犬だけ?

狂犬病という名前から、犬だけが感染する病気だと思っている方が時々いるのですが、違います。

人を含む全ての哺乳類が感染します

アジアでは特に犬が重要な媒介動物です。
南米では吸血コウモリが夜に飛んできて牛などが血を吸われて感染するそうです。
アメリカではアライグマやスカンク、キツネなどの野生動物が問題となっているようです。

もし日本に狂犬病が入ってきて、アライグマなどの野生動物に広がってしまったとしたら、大変なことになりそうです。
アメリカでは野生動物に対してヘリコプターで経口ワクチンを空から撒いているという話を聞いたことがあります。

狂犬病に感染した野生動物は人を恐れなくなることがあるようなので、もし近づいてきたとしても、海外では野生動物に触れない方がいいでしょう。

どうやって感染する?

感染動物に咬まれることによって、唾液中のウイルスが傷口から体内へ侵入します。

感染から発症するまでの潜伏期間は長く、1週間~1年以上と幅があります(平均1か月)。
咬まれた場所も関係するようです。
ウイルスは神経を伝って脳へ侵入します。
咬まれた場所が脳から遠い場所の方が発症までに時間がかかると大学の教授が話していました。

どんな症状があらわれる?

人の場合 
 前駆期:発熱、食欲不振、咬まれた場所の痛みや掻痒感
 急性神経症状期:不安感、恐水・恐風症状、興奮、麻痺、幻覚、精神錯乱などの神経症状
 昏睡期:昏睡。呼吸障害によりほぼ100%死亡

犬の場合 (潜伏期2週間~2か月程度)
 前駆期:性格の変化と行動の異常
 狂躁期:興奮、光や音の刺激に対する過敏反応
 麻痺期:全身の麻痺症状による歩行不能、嚥下困難、流涎、昏睡状態になり死亡

治療法は?

ウイルスそのものは比較的弱いウイルスで、乾燥や熱、石鹸などの界面活性剤、酸、アルカリで容易に不活化します。
アルコールもOK。

人間の話になりますが、危険動物に咬まれたら直ちに傷口を石鹸と流水で洗いましょう。
そして発症するまでの潜伏期間が長いので、暴露後免疫が有効です。

咬まれたらなるべく早く発症を予防するためのワクチン接種を受けます。

1回ではなく複数回接種します。
実際の方法は暴露前にワクチン接種を受けているか、暴露後の現地でのワクチン接種開始の有無、咬傷の状況により異なるようです。

WHOによると、暴露前にワクチンの接種歴がある場合は、すでに免疫がある程度あることから、初日と3日後の2回接種することとされています。

発症してしまうと治療法はありません
なので予防が大事です。

ちなみに、万が一、犬や猫が感染してしまったとしても、法律により治療はされません
殺処分となってしまいます。

狂犬病予防法 犬を飼っている人の義務

犬を飼ったら市区町村に犬を登録する

生後91日を過ぎたら狂犬病ワクチン接種に行きましょう。
動物病院にもよるかもしれませんが、同時に登録の手続きもできることが多いと思います。
かかりつけの動物病院に問い合わせてみてくださいね。

私の勤めている動物病院での流れはこうです↓

飼い主さんが犬を連れて来院
 ↓
申請用紙があるので、飼い主氏名、住所、連絡先、犬の名前、性別、犬種、毛色、生年月日等を記入
 ↓
診察室で体調をチェックしてワクチンを接種
 ↓
鑑札・狂犬病予防注射済証の発行
鑑札は基本的に一生に1枚しか発行されないもので、登録番号が記載されています。
つまり初年度だけ貰えるものです。
狂犬病予防注射済証は毎年ワクチンを接種する度に発行されます。

動物病院で登録の申請をする場合は、市区町村への手続きは動物病院が代行していますので、飼い主さんは役所へ直接手続きに行く必要はないです。

時々先に役所で登録だけを済ませている方もいます。
その場合は役所で狂犬病接種に必要な用紙を渡されるので、その用紙を持って動物病院へ来ていただければ、ワクチン接種を行い、注射済票だけ渡しています。
鑑札は役所で貰えます。

翌年度は春になると家にワクチン接種のお手紙が届くはずなので、それを持ってまた動物病院へ行くという流れです。

動物病院によっては証明書だけ発行し、それを飼い主さんが自分で市区町村へ届け出て注射済票をもらう場合もあると思います。

狂犬病ワクチンを毎年接種する

毎年4~6月が狂犬病の予防接種期間に定められていて、1年に1回接種させなければなりません

期間が定められてはいますが、7月以降もいつでも接種できます。

犬に鑑札と注射済票のタグを付ける

鑑札と注射済票の形は市町村によって異なります。見ているとだいたい金属でできたプレートです。

地域により多少異なるかもしれませんが鑑札と注射済票にはリングを通せる穴が開いています。
初年度にリングも貰えると思うので、そのリングを使って犬の首輪などにタグを2枚とも付けてください。

見ていると付けてない飼い主さん結構多いように思います・・・。

以上の義務を守っていない場合、20万円以下の罰金の対象になりますので注意です。

もし日本に狂犬病が入ってきてしまった場合、感染をおさえるためには70~80%のワクチン接種率が必要だと言われています。
実際のワクチン接種率は70~80%に到達していないようです。

日本は島国ということもあり、大陸の国よりも狂犬病が入って来にくいようです。
しかし中国や韓国など、日本のすぐ近くの国では狂犬病が発生しているので、いつ入ってきてもおかしくない状況です。

犬を飼育している皆さん、狂犬病予防接種は法律で定められた義務ですので、しっかり毎年接種するようにしてくださいね

よくある質問

他の市に住んでいるが狂犬病ワクチンをうってもらえるか?

かかりつけ動物病院が住んでいる市町村以外の場所にある場合、ワクチン接種はしてもらえると思います。
私の勤めている病院でもそういうパターンがあります。
しかし、他の市区町村への手続きは代行できませんので、飼い主さんご自身で行ってもらっています。
動物病院はワクチン接種証明書を発行します。
それを持って役所へ行って、狂犬病ワクチン接種が済んでいることの手続きをしてもらっています。
注射済票は役所で発行して貰えると思います。
動物病院によって違いがあるかもしれないので、問い合わせてみるのが一番です。

犬に咬まれてしまったが、狂犬病は大丈夫か?

先ほど申し上げた通り、現在日本には狂犬病は発生していないです。
そのため感染することはほぼ無いと考えていいです。

しかし、咬んだ犬のワクチン接種歴や海外渡航歴は確認しましょう。

もしワクチン未接種だったとしても、海外渡航歴が無ければ大丈夫だと思います。

咬んでしまった犬の飼い主さんは、保健所に知らせることと、犬を動物病院へ連れていき、狂犬病鑑定(犬が狂犬病に感染していないかどうか鑑定)を受けさせてください。
最初の診察から2週間空けて再度動物病院へ連れていき、狂犬病の発症がないことを獣医師が確認します。

狂犬病ワクチンをうたないとダメ?

法律で決まっているので基本的にはうたなければダメです

しかし、なかには狂犬病ワクチンに対してアレルギーがあったり、ワクチンをうつことで健康上重大な問題が発生する可能性があったり、何かと事情を抱えている子もいます。
その場合は猶予できることがありますので、かかりつけの動物病院で獣医師と相談してみてください。

高齢だからうちたくないという方もいるのですが、基本的には高齢というだけでは免除の理由になりません

室内飼いで他の犬との接触はないという場合も免除にはならないです。

今年1月に狂犬病ワクチンをうったが、4~6月にまた接種しなければダメ?

4~6月にうたなければいけないというわけではありません。
来年の1月でも大丈夫です。

その場合、春に届いた手紙を無くさないように持っていてくださいね。

手紙を紛失してしまってもワクチンは接種できますが、手紙が無いと手続きがちょっと面倒になると思います。

他の市区町村のことはあまり詳しくないですが、3月2日に年度が切り替わります。

年度に1回うてばいいので、3月2日~翌年の3月1日までの間に1回うてばいいです。

1月に接種を済ませた場合、わりとすぐに年度が切り替わりますよね。
接種の間隔が短くても大丈夫か? と心配される飼い主さんは結構多いです。
私がふだん見ている感じでは、短い間隔で再度接種してもあまり問題ないことが多いです。
過去に狂犬病ワクチンの後に体調が悪くなったという子は、無理して間隔を短くしないほうがいいでしょう。

ちなみに海外へ渡航するときなどは1か月経たないで再接種したりします。

4~6月が予防期間と言われていますが、それ以外の時期でもワクチンはうてます。

年を取ってくると、ワクチンの手紙が届いたが今は体調が悪いという子もちらほら見かけます。
その場合も無理せずに様子を見てなるべく夏までにはうてるといいかもしれません。

春に手紙が届くので、体調に問題が無いなら忘れない春のうちに接種を済ませるのがおすすめです。

私の住んでいる市では8月までに接種を済ませていないと秋になって役所から「うってください!」という督促状みたいなものが届きます。
それが届くのが不快な場合は早めに接種を済ませた方がいいと思います。

狂犬病ワクチンの料金は?

動物病院や集団接種会場によって異なるので、かかりつけの動物病院に問い合わせてみてください。

だいたい3000円前後だと思います。

手数料は全ての市で共通なのかわからないですが、私の住んでいる市では注射済票交付手数料が550円、新規登録の場合は登録申請手数料が3000円かかります。

つまり

初年度
注射代(3000円前後)+登録料(3000円)+注射済票交付手数料(550円)

2年目から
注射代(3000円前後)+注射済票交付手数料(550円)

なので初年度だけ少し値段が高いです。

この記事は個人的な経験や大学の講義で教授が話していたこと、以下の文献を参考にして作成しました。
また何かあったら随時更新していく予定です。

●参考文献

厚生労働省HP https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/

『動物病院スタッフのための犬と猫の感染症ガイド』緑書房

『動物の感染症 第3版』近代出版

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