本日は犬の糖尿病のお話をしたいと思います。
「お水を飲む量が最近異常に多い」
「おしっこの回数が多い。1回の量もすごく多い」
このような主訴で動物病院に来院するわんちゃんが時々います。
体重を測ってみると短期間で急に痩せていて、「体重が減っていますね」と飼い主さんにお伝えすると、「え!?ご飯はすごく食べてるのに?」と驚かれることも珍しくありません。
血液検査をしてみると血糖値が600mg/dl超えというような異常な高値(正常値はおおまかにいうと100mg/dl前後です)。
尿検査をしてみると尿糖陽性。(健康な犬の場合は尿中には糖分は出てきません)
このような診察のパターンが糖尿病の患者さんではよく見られます。
糖尿病になる原因
糖尿病というのはインスリンの作用が何らかの原因で不足し、血糖値が上昇してしまう病気です。
インスリンとは膵臓にある膵島のβ細胞から分泌されるホルモンであり、血糖値を下げる効果があります。
高校生物などで勉強したことがある方もいると思いますが、体内には血糖値を上げる働きをする物質(成長ホルモン、グルカゴン、コルチゾールなど)は複数あるのですが、逆に血糖値を下げるホルモンはインスリンしかありません。
とても重要なホルモンですね。
犬の糖尿病のほとんどは膵島のβ細胞の減少や変性によりインスリン分泌が不足することが原因となります。

発症は中高齢の犬で多くなります。
糖尿病の症状
先ほども少し出てきましたが、糖尿病の典型的な症状は多飲多尿、体重減少です。
多飲多尿が出る仕組みは、尿中に糖が出ていると、浸透圧で水分を引き込んでしまうことにあります。
それにより尿量が増え、水分が体から出て行ってしまうので喉が渇き、お水を異常に飲むという流れです。
例えば体重5kg程度の小型犬が1日に500ml以上、中には1ℓ近くの量を飲んだり、1日におしっこを6回、7回…、それも毎回ペットシーツがびしょびしょになるくらいの量を排尿するといった様子が見られます。
食欲はあり、よくご飯を食べているにも関わらず、少し前と比べて1~2割くらい体重が減っていたりします。
また、高血糖の状態が続くと水晶体を濁らせ、白内障になることが多いです。
糖尿病診断時にすでに白内障がある子もいれば、診断時は正常でも糖尿病発症から1年も経つとほとんどの子が白内障を発症してしまう印象があります。

糖尿病の治療
主にインスリン治療と食事療法を行います。
運動も適度に行いましょう。
ただし、激しすぎる運動は低血糖を招く可能性もあるので注意が必要です。
インスリン治療
インスリンは1日2回、朝晩で皮下投与することが多いです。
インスリンの投与量はその子によって異なります。
通常お薬は体重で量が決まるものがほとんどですが、インスリンの場合は同じ体重でも必要な量が違うため、その子に合わせてインスリンの投与量を決めます。
そのため、はじめの数日は入院が必要になることもあります。
インスリン投与後の血糖値の変動をチェックしながら量を決めます。
犬の場合は血糖値を80~180mg/dl程度に維持することを目標にします。
実際のところ、きっちりこの範囲で維持できるかというとなかなか難しいのですが、これを目指します。
インスリンの投与量が決まったら飼い主さんに注射器を渡して家でうってもらいます。
注射器のタイプは1回ずつ使い捨てするものや、針だけ交換して使えるペン型など、動物病院によって異なると思いますが、インスリンの針はふだん私たちがワクチンをうったり採血に使うような針よりも細い物を使用します。

やはり初めは注射ができるか不安に思う飼い主さんが多いように思いますが、やり方をレクチャーするとほとんどの方は問題なく家で投与できています。
たまに、犬が注射をうつ時に怒ってしまい、それが怖くて誰かに体を押さえてもらわないとうてないということもあり、今日は家に1人しかいなくてどうしてもインスリンがうてないのでうってほしいと、動物病院へかけ込んでくる方もいます。
私は保定者がいない時は犬が食事に夢中になっている時にうったりします。
インスリン注射に関しては処方時に獣医師から説明があると思いますので、注意事項をよく聞いてご使用くださいね。
ちなみに犬がご飯を食べないのにインスリンをうつのは低血糖になってしまう可能性があるので注意が必要です。
食べることを確認してから注射した方が無難だと思います。
糖尿病の食事
食事は高繊維、高タンパク、低炭水化物食が推奨されています。
脂質は低めのものがおすすめです。
食物繊維は食後の高血糖を抑制します。
糖尿病用の療法食がいくつか販売されているのでそれを利用するのが簡単でおすすめです。
例:ロイヤルカナン 糖コントロール
ヒルズ w/d
動物病院でサンプルフードが貰えるかもしれないので聞いてみると良いですよ。
食事回数は血糖値のコントロールがしやすいように朝晩の2回にするのが一般的だと思います。
間食は血糖値を上げるのでおすすめしません。
どうしても犬が昼ご飯やおやつを欲しがってついついやってしまうという方も結構いるのですが、見ているとやはり間食を食べている子と食べていない子では食べていない子の方が血糖値が良好にコントロールできていると感じます。
リスクは承知でどうしても食べさせてあげたい!という場合はケースバイケースだと思うので獣医師と相談するのが良いと思います。

糖尿病の合併症 糖尿病性ケトアシドーシス
糖尿病になったら注意しなければいけないことの一つに糖尿病性ケトアシドーシスというものがあります。
本来インスリンが血液中の糖分(グルコース)を取り込み、エネルギーにするところ、糖尿病ではそれがうまくできません。
ではどうするか。
体はエネルギーが必要なので別のルートでエネルギーを作ろうとします。
しかしその過程でケトン体という酸性物質が産生され、ケトン体が蓄積してしまうと体が酸性に傾いてしまいます(代謝性アシドーシス)。
この病態を糖尿病性ケトアシドーシスといい、よくケトアシと略して言います。
これがかなり悪い状態で、命に関わります。
ケトアシになっている場合は早急に治療が必要です。
具体的には静脈輸液をして電解質の補正、こまめに血糖値をチェックしながらインスリンの投与などを行います。
緊急性があるため入院治療になります。
糖尿病性ケトアシドーシスの場合、食欲低下、沈うつ、嘔吐、下痢、脱水などの症状が見られます。
糖尿病でふだんは食欲旺盛なのに、ごはんを食べなくてぐったりしている場合はケトアシになっているかもしれないので動物病院で早めに診察を受けることをおすすめします。
インスリンの副作用 低血糖にも要注意
そしてもうひとつ注意しなければいけないのは何と言ってもインスリン使用により引き起こされる可能性がある低血糖です。
低血糖になると最悪死んでしまう可能性があるので絶対に避けなければなりません。
お家で血糖値が測れない場合は犬が低血糖に陥っているのかどうか判断がつかないこともあると思います。
血糖値が60mg/dl以下になると低血糖と言われます。
低血糖の領域に血糖値が低下したからといってすぐに何か症状が出る訳ではありませんが、その中でも血糖値が下がってしまうと、嗜眠、ふらつき、ふるえ、痙攣などが見られ、最悪の場合昏睡状態に陥ります。

もしお家で低血糖かもしれないと思ったら食事やブドウ糖を口から与え、様子により動物病院へ行きましょう。
低血糖の場合はインスリンを減量します。
低血糖に備えてブドウ糖は動物病院から貰っておくといいと思います。
低血糖のお話をすると低血糖が怖いからインスリンをうちたくないという飼い主さんも極稀にいらっしゃいます。
しかし高血糖の状態を放置しておく方がリスクが高いので、糖尿病になったら迷わずインスリン療法を受けてほしいと思います。
猫の場合は内服薬という方法もあるのですが、わんちゃんでは内服薬での治療はあまり効果が期待できません。
糖尿病の予後
猫の場合はインスリン治療を脱却できるケースもありますが、犬の場合はインスリンの分泌能が復活しないので一生インスリンの投与が必要になります。
血糖値が良好にコントロールできれば糖尿病そのもので亡くなることはなく、腎臓病、感染症、腫瘍、老衰など、他の要因で最終的に亡くなることが多い印象です。
糖尿病の他に疾患を抱えていることもあり、それらによっても予後は異なってきます。
猫の糖尿病はまた少し犬とは異なる部分があるので、またの機会に猫の糖尿病についてもお話できたらと思います。

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