本日のお話は子猫の糞便から時々発見する寄生虫のお話です。
先日、生後2ヵ月の子猫の糞便検査を頼まれました。
渡された便は一見普通の便でした。
駆虫薬投与済みと聞いていたので、異常は見つからないかなと思って糞便検査を始めたのですが、コクシジウムという原虫を発見しました。
駆虫薬というのはおそらく回虫や条虫に効果のある駆虫薬だったようで、他の動物病院で処方されたものだったので詳細はわからなかったのですが、コクシジウムの薬ではなかったようです。
ノミと一緒に回虫や条虫を駆除できる薬は販売されているのですが、コクシジウムは全く別の薬になります。
今日はコクシジウムについてお話します。
コクシジウムとは
コクシジウムは先ほどもちらっと言いましたが原虫の仲間です。
コクシジウムと言っても、細かく言うと種類があります。
アイメリア、イソスポラ、クリプトスポリジウム、トキソプラズマ、ネオスポラ、サルコシスティスなど。
あまり聞き慣れない名前が並んでいるかもしれません。
クリプトスポリジウムやトキソプラズマは時々人でも聞くかもしれませんが。
獣医の学生は全て勉強します。覚えるのが大変だった。
アイメリアは草食動物や鳥に多いです。
なのでふだん犬猫の診療をしてる分にはアイメリアは出会わないです。
イソスポラは肉食動物に多いです。
今回はイソスポラを中心にお話します。
イソスポラは犬や猫、豚など様々な動物に認められ、犬や猫に寄生するイソスポラにもまたまた種類があります。
ですがふだん種類までは気にかけないので、省略させてもらいます。
タイトルを”子猫”の下痢としたのは、個人的に犬よりも猫からコクシジウムを発見することが多く、成猫よりも子猫から検出する機会が多いからというだけです。
イソスポラは宿主特異性が高いです。
犬に寄生するイソスポラは猫や人には感染しません。
猫に寄生するイソスポラは犬や人には感染しません。
なので犬と猫が両方家にいる場合、互いにイソスポラがうつることはないです。
診断方法
イソスポラは犬猫の小腸に寄生します。
そこで無性生殖・有性生殖を行って、最終的にオーシストという卵みたいな形になって糞便中に排泄されます。
このオーシストを糞便検査で検出することで、コクシジウムに感染していることがわかります。
今回糞便検査で発見したのも、このオーシストという物です。
コクシジウムの生活環
余談ですが、大学ではコクシジウムの生活環も細かく覚えなければいけませんでした。
「え、これ覚えるの・・・?辛い・・・」ってなりました。
周りの人たちも同じようなこと思ってたと思います。
だって、こんな生活環してるんですよ…↓
成熟オーシスト
→ スポロゾイト
→ シゾント
→ メロゾイト
→ ミクロガメートサイト(♂)/マクロガメートサイト(♀)
→ ミクロガメート(♂)/マクロガメート(♀)
→ ザイゴート
→ 未成熟オーシスト
→ スポロブラスト形成
→ スポロシスト形成
→ 成熟オーシスト
ちなみにスポロゾイトからメロゾイト形成までが無性生殖です。
この無性生殖にも名前が付いていて、シゾゴニーといいます。
メロゾイトからガメート形成までが有性生殖です。
有性生殖の部分はガメトゴニーやガモゴニーといいます。
どうですか?混乱しませんか?覚えるのしんどいって思いませんか?
しかもこの生活環、コクシジウムの種類によって少し異なります。
その異なったところがテストで問われたりする…。
また、オーシストの中にはスポロシストというものがあり、スポロシストの中にスポロゾイトがあります。
コクシジウムの種類によってスポロシストとスポロゾイトの数が異なるので、診断時に重要になるのですが、その数も覚える必要がありました。
ちなみにイソスポラの場合は2つのスポロシストの中にスポロゾイトが4つずつあります。
まぁ…獣医師国家試験を受ける人は覚えてください。
↓丸の中に2つの丸があります。これがスポロシストです。スポロゾイトまではよく見えません。
だいぶ脱線してしまいました…話を元に戻しましょう。
感染経路
糞便中に出たオーシストが何らかの形で口に入ることで感染します。
しかし、糞便に出てきた直後のオーシストに感染性はありません。
1~4日放置すると感染力を持ったオーシストに発育してしまいます。
なので、糞便はすぐに片づけることが望ましいです。
早期の糞便処理が予防にもつながります。
また、細菌やウイルスとは異なり、オーシストは消毒薬が効きません。
塩素系消毒薬で拭いても効きません。
熱には弱いので、糞便で汚染された食器などがあれば、熱湯消毒するのがいいかもしれません。
感染する可能性がある動物が他に家にいる場合は、感染した子はオーシストが消えるまでは隔離してください。
症状
感染した動物の主な症状は下痢です。
下痢の程度は様々で、水下痢の子もいれば、軟便程度の子もいますし、今回のように見た目は普通の固形便が出ることもあります。
子猫や健康状態の悪い子では重症化することもあります。
結構ひどい下痢をしていて、検査したらコクシジウムのオーシストが大量に見つかった経験もあります。
今回のように見た目はふつうの便からたまたま発見することもあります。
治療
糞便検査でオーシストが確認された場合はコクシジウムの駆除薬を投与します。
あとは動物の状態によって対症療法を行います。
コクシジウムの薬にはいくつか種類があり、全てではないかもしれませんが、私の知っている薬は激不味いようで、うまく投与しないと飲み込まずに泡となって口からこぼれ出てきます…。
予防薬はありません。
といっても、ノミのように頻繁に感染するものでもないので、予防する必要までは無いかなと思います。
糞便検査のすすめ
コクシジウムは頻繁に遭遇する寄生虫ではないですが、そこまで稀という物でもないです。
特に子猫から検出されることが多いです。
猫や犬が下痢をしていたら、早めに動物病院で診察を受けることをおすすめします。
放置すると下痢がひどくなることもあるし、下痢から脱水症状を引き起こしてしまうこともあります。
診察に行く際は、可能なら新鮮な便を持って行き、検査してもらうことをおすすめします。
特に子猫、子犬は何らかの寄生虫を持っていることも稀ではありません。特に保護猫。
下痢の原因が寄生虫の場合は、いくら下痢止めをやったって、駆虫しない限り下痢が治りません。
逆に言うと駆虫してしまえばたいてい落ち着きます。
今回のようにコクシジウムは見つからなくても、他の寄生虫が見つかったり、変な細菌が見つかったり、何かしら下痢の原因がわかることがありますので、成犬・成猫の場合も糞便検査をおすすめします。
水下痢の場合、ペットシーツやオムツに完全に吸収されてしまっていると検査できないかもしれませんので注意してください。
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