猫の混合ワクチン接種でどんな病気が予防できる?~後編~

後編は3つの感染症について解説します。

猫汎白血球減少症


時々遭遇します。子猫が感染するとかなり危険な感染症です。

猫汎白血球減少症の原因

パルボウイルス科の猫汎白血球減少症ウイルスによって引き起こされます。

「パルボ」とは「小さい」を意味するラテン語に由来しており、動物に感染する最も小さいウイルスの一つです。

感染した猫の便や吐物、それらに汚染された食器などに存在するウイルスが口や鼻から侵入して感染します。

猫汎白血球減少症の症状

潜伏期は通常4~6日。

元気消失、発熱、脱水、下痢、嘔吐、血便などがみられます。

細胞分裂が活発な組織でウイルスが増殖する傾向があり、そのため、骨髄や腸粘膜などが標的となり、白血球の減少や下痢がみられます。

ウイルスが腸粘膜を破壊するため、そこから細菌が侵入し、重症化します。

腸絨毛の先端よりも分裂が盛んな陰窩細胞が標的となるため、粘膜の破壊も激しく、絨毛の再生も起こりにくく出血もします。

白血球数は3000/μℓ以下(正常は5500~19500くらい)になることも多く、予後不良の場合が多いです。

成猫では不顕性感染(ウイルスに感染はしているが症状が無い状態)もしくは軽度な症状に留まりますが、子猫では重篤化しやすく死亡することが多いです(死亡率75~90%)。

妊娠中の猫が感染すると、妊娠3週までは流産を起こすと言われています。

妊娠4週~生後2週齢頃までに感染すると小脳形成不全を起こし、運動失調を示すことがあります。

猫汎白血球減少症の診断

血液検査で白血球の減少を確認したり、排泄物を検査してウイルスを確認します。

猫汎白血球減少症の治療

対症療法。点滴や二次感染防止のための抗菌剤の投与など。

体力がある子であれば抗体の出現に伴い、急速に回復に向かうので、発症から約1週間の対症療法が予後を左右します。

猫汎白血球減少症の予防

ワクチンの接種、感染源となりそうな猫との接触回避。

パルボウイルスは非常に抵抗性の強いウイルスです。
アルコール消毒では効果が弱いです。
消毒の際はハイターなどの次亜塩素酸ナトリウムがおすすめです。


猫白血病ウイルス感染症

この感染症にかかってしまうとあまり長く生きられる印象がありません。
ウイルスに感染しないこと、感染させないことがとても大事です。

猫白血病ウイルス感染症の原因

レトロウイルス科の猫白血病ウイルスが原因となります。

感染した猫の唾液、便、尿、母乳、鼻汁にウイルスが含まれ、口や鼻から吸い込むことで感染します。

猫同士が舐め合ったり、食器を共有することでも感染する可能性があります。
ただし、この場合は持続的に濃厚な接触が無いと感染は成立しません。

咬み傷からウイルスが侵入した場合は、かなり高率に伝播すると考えられています。
外で野良猫と喧嘩しないように注意です。

しかし、感染しても発病せずにウイルスが体内から消えることもあります。
子猫ほど持続感染になることが多く、持続感染になると生涯に渡ってウイルスを持ち続けることになります。

5~7割の感染猫では、感染後数年以内に発症し、死亡します。
回復した場合でもウイルスを持ち続けます。

母猫が感染している場合は、胎盤や母乳を通じて子猫に感染することがあります。
しかし、子猫の多くは流産や死産となり、無事に生まれたとしても早期に死亡することが多いです。

このため、子猫へのウイルス汚染は母猫の唾液による母子感染に基づくと考えられています。

猫白血病ウイルス感染症の症状

ウイルスに初めて感染すると、感染後2~6週目に全身のリンパ節が腫れ、発熱します。

このウイルスは骨髄造血細胞に感染するため、血球に異常をもたらします。

血液検査では、白血球減少や血小板減少、貧血などがみられます。

一般にこの時期の症状が軽いか無症状の場合は一過性の感染で終わり、症状が重度の時に持続感染になりやすいと言われています。

ウイルスの作用により、リンパ腫(特に前縦隔型リンパ腫が多い)や急性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、急性リンパ芽球性白血病、再生不良性貧血、赤芽球癆、流産、脳神経疾患などが起きることがあります。

免疫異常により、溶血性貧血や糸球体腎炎、猫ヘモバルトネラ症、猫伝染性腹膜炎、トキソプラズマ症、クリプトコッカス症、口内炎などが引き起こされることもあります。

猫白血病ウイルス感染症の診断

少量の血液で簡単に検査できます。

拾ってきた猫を飼い始めるときや、外に出て他の猫と喧嘩した時は検査を受けることをおすすめします。
また、猫白血病ウイルスのワクチンをうつ前には、すでに感染していないか先に検査しましょう。
すでに感染している場合はワクチンをうっても無効です。

喧嘩した場合、直後に検査しても潜伏期間があるため陽性と出ません。
3週間ほど期間を空けてから検査するようにしてください。
また、1回目の検査で陽性と出た場合でも陰転することがあるので、3~4か月後に再度検査してみることをおすすめします。
その時も陽性であれば残念ながら生涯陽性かもしれません。

猫白血病ウイルス感染症の治療

特異的な治療法はありません。そのため対症療法を行います。

インターフェロン、輸血、抗菌剤、点滴などです。

子猫では重篤化しやすいので、末期には生活の質(QOL)の向上を図ります。

1歳以上の猫では回復することもありますが、ウイルスは持ち続けるので、外には出さないようにし、同居猫がいる場合は生活空間を分ける必要があります。


猫白血病ウイルス感染症の予防

まずは感染しないことが大切です。
外に出さないで飼育すれば感染することは無いでしょう。

外に出る可能性があるならワクチン接種をおすすめします。ですが、100%予防できるわけではないです。

すでに感染している場合は、なるべくストレスをかけないようにして発症を予防します。

ウイルス自体は消毒薬や熱、乾燥に弱いです。

猫クラミジア症

私はそんなに頻繁には遭遇しませんが、たまにクラミジアっぽい子に会います。
目の症状が強く出るので、そういった時にクラミジアを疑います。

猫クラミジア症の原因

クラミドフィラ・フェリスというクラミジア(細菌よりも小さく、ウイルスよりも大きい微生物)の感染によって引き起こされます。

1歳以下の子猫でみられることが多いと言われています。

感染した猫の目ヤニや鼻水、唾液、糞便などに病原体が存在しており、接触することで経皮・経口・経気道感染します。

母猫から子猫への垂直感染も起きます。

猫クラミジア症の症状

潜伏期間は2~3週間。

目ヤニや結膜炎などの目の症状が片目から始まり、両目に広がります。

目ヤニで眼球が覆われてしまうこともあります。

鼻汁や咳、くしゃみがみられることもあり、稀に肺炎になります。

特にワクチン未接種の子猫では、重度の目の症状や肺炎に進行し死亡することがあるようです。

呼吸器症状が重篤化することもありますが、結膜炎がみられる程度であれば、多くは2~6週間で改善します。
しかし回復後も慢性的に結膜炎がみられるようになることがあります。

回復猫はクラミジア保菌猫となり、感染を広げてしまうことがあるので注意が必要です。

猫クラミジア症の治療

テトラサイクリンなどの抗菌剤を使用します。

抗菌剤の投与は症状が無くなった後も長めに投与し、しっかりクラミジアを除去します。

その他対症療法を行います。

感染猫は隔離してください。

猫クラミジア症の予防

感染猫との接触を避けることと、5種混合ワクチンが感染予防や発症後の症状軽減、発症期間の短縮に有効です。

以上、すべての感染症に共通していることですが、多頭飼育ではこれらの感染症は広がりやすいので、特に注意が必要です。

猫混合ワクチンの種類


少し前は6種ワクチンも販売されていましたが、今は無くなってしまいました(2023年5月現在)。
今国内で流通しているワクチンは以下の3種類です。

・3種混合ワクチン:猫ウイルス性鼻気管炎、猫カリシウイルス感染症、猫汎白血球減少症

・4種混合ワクチン:3種+猫白血病ウイルス感染症

・5種混合ワクチン:4種+猫クラミジア感染症

完全室内飼いであれば基本的には3種混合ワクチンでいいでしょう。

猫を外に出すことはおすすめしませんが、どうしても外に出てしまうことがある場合は4種以上のワクチンがおすすめです(白血病が含まれているもの)。

・参考資料

『動物の感染症 第三版』、近代出版

『犬と猫の感染症ガイド』、緑書房

『イヌ・ネコ家庭動物の医学大百科』、PIE BOOKS

『猫の医学』、時事通信社

『獣医微生物学』、文英堂出版

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