犬と猫にも血液型がある。人とはどう違うの? 輸血はできる?

あなたの血液型は何型ですか?

人の場合、自分の血液型をご存じの方は多いと思います。

では、飼っている犬や猫の血液型を知っていますか?

多分ほとんどの方は知らないのではないでしょうか。

そういう私も実家で飼っている猫の血液型を知りません。

調べる機会はそうそう無いですよね。

そもそも犬や猫にも血液型があるの?どんな型があるの?

これは時々飼い主さんから質問を受けます。

今回は犬と猫の血液型のお話をしたいと思います。

動物病院の輸血用血液事情

動物病院で診察をしていると、重度の貧血に陥っている動物に出会うことがあります。

最近だと免疫介在性溶血性貧血という病気の犬がいました。

自分の赤血球を敵だと認識してしまい、自分の免疫で赤血球を壊してしまう病気です。

それにより貧血が生じます。

その子はかなり重度の貧血だったので、救急で二次診療施設を紹介して輸血してもらいました。

動物病院で輸血用の血液をストックしていることは少なく、大きな動物病院でもそんなにたくさんの血液は置いてないと思います。

ところで、あなたのかかりつけの動物病院では中型以上の犬が飼われていたりしませんか?

中には首にバンダナか何か巻かれている子もいるかもしれません。

その犬は単にペットや看板犬として飼われているのではなく、供血犬(ドナー)の可能性があります。

首にバンダナを巻いているのは、頚静脈から採血するために首周りの毛を剃ってあるからかもしれません。

人も輸血用の血液を集めるのは大変そうです。

時々街中で献血の協力を呼びかけているのを見かけますよね。

動物も輸血用の血液を手に入れるのは簡単ではありません。

そのため各自の動物病院で供血犬を飼っていたりするのです。

しかし血液が手に入ったとして、ここでもう一つ障壁があります。

人間同様、血液なら何でもいい訳ではありません。

犬や猫にも血液型があり、輸血に適さない場合があります。

残念ながら犬同士、猫同士であればみんな輸血し合えるわけではないんですね。

ちなみに、飼い主さん自身に供血犬を探してもらうことも珍しくありません。

例えば同居犬・猫がいる場合はその子に協力してもらうこともあります。

動物を飼っている友人に声をかけてもらうパターンもあります。

このようにして、動物病院では輸血用の血液を確保しています。


犬の血液型

犬の血液型は人のABO式とは違い、犬赤血球抗原(dog erythrocyte antigen=DEA)により分類されます。

DEA1.1型、1.2型、1.3型、3型、4型、5型、6型、7型、8型などが主な血液型です。

人のように単純に「私はA型だよー」とはいきません。

犬で血液型を表そうとすると、DEA1.1(-)、DEA1.2(-)…のようにそれぞれの型に対して陽性か陰性かを言うことになります。

血液型の数は論文によって記載されている数が異なり、13種類以上見つかっているとの報告もあります。

ですが、実際には臨床現場でそんなに細かく血液型を判定しているわけではなく、重要な部分を評価して輸血を実施します。

その最も重要な血液型というのがDEA1.1型です。

抗原性が最も高く、拒絶反応が起きやすいので輸血の際に問題になります。

逆にこのDEA1.1(-)の血液は人でいうO型のようなもので、輸血に使いやすいです。

O型の血液はO型、A型、B型、AB型の人に輸血ができますが、逆に貰うときはO型しか貰えませんよね。

輸血前は交差適合性試験(クロスマッチといいます)を実施し、拒絶反応が起きないか確かめます。

クロスマッチの結果次第でDEA1.1(-)の犬はDEA1.1(+)の犬に血液をあげることができます。
でも貰うことはできません。

ちなみにアメリカではDEA1.1(+)の犬が30~50%、DEA1.1(-)の犬が50~70%だそうですが、日本ではDEA1.1(-)の割合の方が少ないようです。
だいたい60~70%以上がDEA1.1(+)といわれています。

ですが、犬の場合は赤血球抗原に対する自然発生の抗体はほとんど存在しないため(DEA3,5,7では稀に報告されている)、型が違っても初回輸血時は副反応である溶血が生じる可能性は低いとされています。
※溶血というのは赤血球が壊れることです。

しかし、一度異型輸血すると、受血犬(レシピエント)体内で抗体が産生されてしまい、二回目の輸血時に重篤な溶血反応が起きる可能性が高くなります。

さらに、DEA1.1(-)のメス犬がDEA(+)の子供を妊娠した場合も、すでに抗体産生が起きていることがあり、その場合は初回輸血時でも溶血が生じる可能性があるため要注意です。

その他、犬と喧嘩して外傷を負ったことがある犬も抗体産生が起こっている可能性があるため初回輸血時でも注意が必要です。こういうケースはなかなか無いとは思いますが。

妊娠経験のある犬はレシピエントとしても用いるべきではないとされています。

DEA1.1型の陽性率については、犬種によって差があるという報告がいくつかあります。

2つの報告を見比べてみたのですが、柴犬やミニチュアダックスはDEA1.1(+)率が高いことが共通していました。

逆にDEA1.1(-)の割合が比較的高いのはジャーマンシェパード、フレンチブルドッグでした。

猫の血液型

猫の血液型は、A型、B型、AB型3種類です。

人と似ていますね。でもO型はありません。

そしてAB型は稀です。

ちなみに、A型とB型を交配してもAB型にはなりません。

AB型はAB型同士の交配によってのみ誕生します。

A型が優性であり、A型とB型を交配するとA型になります。

犬の場合とは異なり、猫は初回輸血であっても異型輸血は避けたほうがいいです。

特にB型の猫は高力価の抗A抗体を持っていることがほとんどで、初回でも極めて危険です。

A型の猫も低力価の抗B抗体を持っていることがあるので、異型輸血は避けるべきです。

AB型の猫には抗A抗体も抗B抗体も存在しませんが、異型輸血の場合に一方の猫に存在する抗体によって溶血が起きる可能性があります。

以上の理由から猫には基本的に同じ型の血液を輸血するべきですが、先ほど申し上げた通り、AB型の猫は稀です。

AB型の猫に輸血する必要があるとき、都合よくAB型の猫が居るとは限りません。

その場合はクロスマッチの結果次第でA型を輸血します。

猫では70~90%くらいはA型のようです。

B型の割合が比較的高い種としては、コーニッシュレックス、デボンレックス、ブリティッシュショートヘア、エキゾチックショートヘアなどが報告されていますが、比較的高いと言っても20~40%くらいの割合です。

論文を見ていると、海外では猫の輸血用血液が用意できない時に、犬の血液を輸血したという報告が複数ありました。

はじめは犬の赤血球に対する抗体がなく、輸血により数時間以内に一時的に貧血の症状が改善されるようです。

しかし猫の体内で急速に犬の赤血球への抗体が産生され、少し遅れてから溶血が起き、犬の赤血球は数日で無くなるようです。

繰り返し輸血するとアナフィラキーショックが起きて多くの場合死に至るようですが、単回輸血であれば必ずしも死に至るわけではないようです。

ですが、反応が予測できないので危険です。



ドナーに適している条件

今後もしも自分の飼っている犬や猫に輸血が必要になり、ドナーを探してくださいと言われたら・・・。

以下を参考にドナーを探してみてください。
一部項目は病院で検査しなければわかりませんので、ぴったり当てはまる子を探さなくても大丈夫だと思います。

・犬では体重10kg以上(25kg以上が望ましい)

・猫では体重3.5kg以上(5kg以上が望ましい)

・年齢満1~8歳程度

・犬では5種以上の混合ワクチン接種、狂犬病予防接種、フィラリア予防、ノミダニ予防をしているもの

・猫では3種混合ワクチン接種、ノミダニ予防をしているもの

・妊娠・出産歴がないもの

・健康な動物で感染症がないもの

 犬ではフィラリア抗原検査や犬バベシア症の遺伝子検査が陰性

 猫では猫免疫不全ウイルス、猫白血病ウイルス、猫コロナウイルス、猫ヘモプラズマの検査が陰性

・身体検査、尿検査、便検査、血液検査などで大きな異常がない

・犬ではDEA1.1(-)が理想ですが、DEA1.1(+)でもドナーになれます。

 また、DEA1.2、DEA7抗原についても同じ理由で陰性が理想。

・PCVが犬では40%以上、猫では30%以上

 (PCVとは血液中の赤血球や白血球など細胞成分の割合のことです)

・血液型を検査してあると良い

・献血間隔は3カ月以上が推奨。緊急時でも3週間以上は空ける。


血液型については今回色々と資料をあさってみて、それぞれ書いてあることに多少差がありました。

まだまだ研究中の分野です。

また何かあれば書き足していきたいと思います。

今回のお話は一部は大学で学んだことですが、その他の参考資料を載せておきます。

・『犬と猫の救急医療プラクティス』、緑書房

・『犬の内科診療Part3』、緑書房

・『愛玩動物看護師の教科書 第4巻 臨床動物看護学』、緑書房

・『伴侶動物の臨床病理学』、緑書房

・『獣医内科学 小動物編』、文永堂出版

・Bovens C, Gruffydd-Jones T. Xenotransfusion with canine blood in the feline species: review of the literature. J Feline Med Surg. 2013 Feb;15(2):62-7. doi: 10.1177/1098612X12460530. Epub 2012 Sep 14. PMID: 22983454.

・Euler CC, Raj K, Mizukami K, Murray L, Chen CY, Mackin A, Giger U. Xenotransfusion of anemic cats with blood compatibility issues: pre- and posttransfusion laboratory diagnostic and crossmatching studies. Vet Clin Pathol. 2016 Jun;45(2):244-53. doi: 10.1111/vcp.12366. Epub 2016 May 31. PMID: 27243621; PMCID: PMC4907801.

・Griot-Wenk ME, Giger U. Feline transfusion medicine. Blood types and their clinical importance. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 1995 Nov;25(6):1305-22. doi: 10.1016/s0195-5616(95)50156-1. PMID: 8619268.

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