早めに気をつけてほしい! 熱中症のお話

春になり暖かくなってきたと思っていたところなのに、もう夏の気配がしてきました。

こうも温度差が激しいと体調を崩してしまいそうです。

みなさんお気を付けください。

気温差に弱いのは犬も猫も同じです。

季節の変わり目は下痢・嘔吐などの消化器疾患、膀胱炎・尿道閉塞など泌尿器疾患が目立つような気がします。

さて、夏の気配を感じ始めるこの時期から注意してほしいことがあります。

それは熱中症です。

まだ早くない?そう思う方もいるかもしれませんが、まだ体が暑さに慣れていないこの時期は案外注意が必要です。

日本では5月上旬から熱中症が増加し始め、7月下旬にピークを迎えます

そして8月末を目処に収束していきます。

猫も熱中症になりますが、犬の方が多いです。

今回は熱中症について取り上げてみます。


熱中症とは

暑熱により生体機能が著しく障害を受けた状態をいいます。

人でも毎年たくさんの方が熱中症で亡くなるので、危険な状態であることは説明しなくてもご存じだと思います。

ちなみに熱射病という言葉も聞いたことありませんか?

熱中症と熱射病は同じ意味ではなく、熱中症の中でも意識障害がみられるような重症なものを熱射病といいます


ちなみに体温と臨床症状により以下のように分類されます。
専門知識なので参考までに。

 熱痙攣 体温:正常
臨床症状:特になし~軽度脱水
 熱疲労体温:40℃以下の体温上昇
臨床症状:無気力、衰弱、嘔吐、下痢、過度のパンティング              
 熱射病体温:41℃以上
臨床症状:昏睡、痙攣、虚脱、吐血、血便、ショック、不整脈、
     播種性血管内凝固症候群(DIC)


どういう状況で熱中症になりやすい?

~屋外編~

気温が高い時に屋外で直射日光を浴びるのはもちろん危険です。

またアスファルトやマンホールの蓋などは、そこで焼き肉ができるんじゃないかと思うくらい熱くなっていることがありますよね。

地面付近は特に熱く、体高が低い犬は人よりも地面の熱を感じますし、肉球を痛める可能性もあります。

散歩に行くときは地面を手で触って犬が歩くのに熱くないか確認しましょう

真夏は夕方になってもまだ地面が冷めてないことがあります。

早朝であっても、すでに地面が熱くなっているかもしれないので注意してください。

実際に、暑さを避けて朝の早い時間に犬の散歩に行ったのに、そのあと熱中症になってぐったりしてしまったというケースに遭遇したことがあります。

そうやって気を付けていても熱中症は起きてしまうので、油断は禁物です。

また、キャリーケースの中は物によっては風通しが悪く、熱くなることがあります。

一緒におでかけするときは要注意です。

私の知り合いの話なのですが、過去に猫を長時間キャリーに入れたままにしていて熱中症で亡くなったという話がありました。
ちなみに真夏の話ではなかったです。

~車編~

人でも車の中で熱中症になって死亡するケースが毎年ニュースになります。

そのため車の中も危険だと認識している方は多いと思います。

冬でも車内は暖かくなりやすく、夏はなおさら超危険です。

エンジンを切った車の中に、短時間であっても動物を閉じ込めてその場を離れるのはやめましょう

春~秋は特にですが、通年注意することをおすすめします。

車によっては冷房をつけていても車内が均一に涼しくならない場合もあると思いますので、冷房をつけているから大丈夫と思い込まずに、動物の様子を観察してあげてください。

~屋内編~

案外多いのが、冷房のかかった家の中で日中留守番させていたというパターンです。

冷房をかけて涼しくしているつもりでも、熱中症になる子がいます

冷房26~27℃でも人によっては十分涼しいと感じるかもしれませんが、犬の場合はもう少し温度を下げた方がいいように思います。

ですが温度が低すぎると逆にお腹をこわす子もいます。

25℃くらいを目安にしてみるのがいいかもしれません。


高齢犬で自力で動けない子は、暑いと感じても自力で暑さから逃れられず、具合が悪くなってしまうことがあります。

夏は寝床に日光が当たらないように工夫したり、室温には注意してあげてください。

また、健康な子と比べて高齢犬は脱水しやすいので、水分の摂取も忘れずに



特に注意が必要な犬種

短頭種

短頭種とは簡単に言うと、鼻がつぶれた形をした犬です。

ブルドッグ、フレンチブルドッグ、パグなどがそれにあたります。

この中だと過去にフレンチブルドッグの熱中症には遭遇したことがあります。

犬が暑い時に口を空けて舌を出してハァハァ息をしている姿が思い浮かびますか?

これはご存じの方も多いと思いますが、パンティングと言われる行動です。

汗腺が少ない犬は、人のような発汗による体温調節ができず、パンティングにより体温を下げます。

しかし短頭種は他の犬種と比べて解剖学的に呼吸するのが下手ですので、体温調節が上手くいかず高体温になりがちです。

興奮しやすい子は特に要注意です。

暑くない室内に居ても、長時間吠え続けたり、激しく動いたり、そうやって興奮するだけで体温が上昇し、自分で熱中症を引き起こしているフレンチブルドッグを見たことがあります。
体温を測ると43℃になっていました。
その子は2回くらい死にかけましたが、今も元気です。

肥満犬

太っている子も注意が必要です。

脂肪により気道が圧迫されると呼吸がしづらく、パンティングでの体温調節が上手くできません

また、皮下脂肪が熱を逃がすのを妨げるので、体に熱がこもりやすいです。

肥満の子にとってはダイエットしておくことも熱中症予防につながります。


その他、寒い地域出身の犬は暑さに弱いので注意です。

呼吸器や循環器の病気を持っている子は持病が悪化する可能性がありますので危険です。

症状

初期にはパンティングがみられ、唾液分泌が多くなります

重症化すると、嘔吐、下痢、起立不能、痙攣などを起こします

さらに、体内では熱の影響により多臓器不全、血液凝固障害などが起き、これにより消化管出血、乏尿・無尿などがみられることがあります。

ご存じの通り、最悪死亡します。

熱中症対策

では、熱中症にならないためにはどういう対策ができるでしょうか。
思いつくことをざっと挙げてみます。

・室内では冷房をつけるなどで室温・湿度の管理をする

・遮光カーテンなどで直射日光を避ける

散歩の時間帯を気を付ける(日中の暑い時間を避け、早朝や夜になってから散歩する)

・こまめな水分摂取をこころがける

お出かけ・散歩時は保冷剤や給水ボトル、うちわ、小型扇風機を携帯する

キャリーの中が暑くならないように気を付ける

・保冷剤を入れられるバンダナやアイスリングなど、冷たいものをを首に巻く

肥満の場合はダイエットしておく

過度な運動を避ける


熱中症かもしれない! どうしたらいい? 動物病院へ行くまでにやってほしいこと

暑そうにパンティングしているだけというレベルであれば、涼しい所に移動し、安静に過ごして水分を与えてください

冷房のある部屋に移動できるなら、温度はかなり低めの20℃くらいに設定してください。

しばらくしても落ち着かなければ動物病院へ行きましょう。

元気が無かったり、よだれを垂らして嘔吐したというレベルであれば様子を見ずに動物病院を受診してください。

高体温の時間が長くなると予後が悪くなるため、動物病院へ行くまでに可能なら冷却処置をして下さい。

首より下を冷水シャワーで濡らし、頸部、腋窩、鼠経部などの大きな血管が走っている部位に保冷剤を当てて下さい。

その状態で急いで動物病院を受診してください。

体を濡らした後に扇風機などで風を送って気化熱を利用して体温を下げるのも良いと思います。

もしも病院を受診するまでに体温が測れる場合は、測ってみてください。

犬の正常体温はおおよそ38℃台です。

ぐったりしている場合はたいてい40℃を超えています。

高体温になってしまっている場合、39.4℃まで下げることを目標に冷却を行ってください。

体表の冷却を中止した後も中心部体温は下がり続けますので、冷やし過ぎに注意です。

ちなみに動物の体を氷水に入れて冷やすのは避けてください

体表血管の収縮で逆に体温が低下しづらくなったり、皮膚の血流を低下させることで血栓の形成を助長する可能性があります。

水槽に入れる場合は、水槽のサイズ(小さすぎると水温がすぐに上がってしまう)や水槽の水を飲んで誤嚥しないように気を付ける必要があります。

治療

飼い主さんにやってもらいたいことは先ほどすでに書きました。

ここからは主に獣医師の仕事ですので、さらっとにします。

・軽度(熱痙攣~軽度の熱疲労)

徴候:意識正常、パンティング、軽度脱水

→涼しい所で安静に過ごし、水を飲ませる。

脱水や嘔吐がある場合は動物病院へ行き、皮下補液や胃薬・制吐剤で処置を。

・中程度(熱疲労)

徴候:意識正常、嘔吐、虚脱感

→動物病院で体温管理、静脈点滴を行う


・重度(熱射病)

徴候:意識低下、肝障害、腎機能障害、血液凝固障害

→集中治療が必要。

 冷却処置、酸素吸入、輸液、DIC治療、痙攣発作に対する対応など。

予後

病態の程度により異なりますが、致死率は50~56%という報告があります。

また、別の報告によると自宅から動物病院へ到着するまでに冷却処置が実施されていた場合は致死率が19%だったのに対し、冷却処置が実施されていなかった場合の致死率は49%だったそうです。

冷却処置を早く始めることが大切というわけです。

意識低下、低血糖、昏睡状態、低体温、高ビリルビン血症、心室性期外収縮、低蛋白血症、呼吸困難、肺水腫、血液凝固異常などが見られる場合は予後はよくないかもしれません。

動物病院への到着が遅れることも予後不良につながります。

肥満体形であることもリスクが高いです。

最後に


熱中症は重度になると死んでしまいます。

まだ大丈夫だろうと油断せずに、早めに熱中症対策をしましょう。

近年4月下旬頃から急に暑い日が来たりします。

ゴールデンウィークはきっと犬を連れて一緒にお出かけする方も多いのではないでしょうか?

せっかくの楽しい休日を熱中症で大惨事にしないようにしてくださいね。

私はゴールデンウィークは関係なく仕事の予定です…(泣)休みたいなぁ。連休羨ましいなぁ。

熱中症の患者さんが来ないことを願っています。


・参考文献

『犬と猫の救急医療プラクティス』、緑書房

『犬の内科診療 Part1』、緑書房

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