「あれ? うちの子、精巣が一つしか無い?」
「去勢手術をしていないのに精巣が無い。元々無いのかな?」
オス犬やオス猫を飼っている方で、お尻を見たら精巣が一つしか無いことや一つも無いなんてことありませんか?
それはもしかすると潜在精巣かもしれません。
精巣は左右で2つあるのが正常です。
去勢手術の相談で動物病院へ行ったら指摘されたという飼い主さんも多いかもしれません。
初期であれば症状は特にありませんので気づかないで過ごしていることも結構多いです。
今日は潜在精巣についてお話します。
潜在精巣とは
多くの哺乳類は胎生期か出生後間もなくお腹の中から精巣が陰嚢内に下降してきます。
片方または両方の精巣が性成熟を過ぎても陰嚢内に下降してこない場合を潜在精巣と言います。
陰睾、停留精巣、停留睾丸と言うこともあります。
停留する場所は腹腔内の場合もあれば鼠径部など陰嚢に近い場合もあります。
精巣下降時期
精巣の下降時期は動物の種類によって差があります。
犬では遅くても生後30日までに下降し、猫は生後20日までに下降します。
ちなみに他の動物の例も少しあげておきます。
牛・・・胎齢4か月
羊、豚・・・胎齢3か月
馬・・・胎齢10か月~生後1週間
潜在精巣の発生率
潜在精巣の発生率は犬で1.7~11%と犬種によっても差があるようです。
雑種よりも純血種の方が発生が多いです。
猫では1%未満です。
片側性が多く、犬では特に右側精巣で発生が多いと言われています。
なぜ潜在精巣になる?
要因には以下のようなものがあります。
・腹腔内で形成された精巣を陰嚢内へ引っ張る役割をしてくれる精巣導帯が未発達
・精巣から分泌されるアンドロジェンの分泌不足
・腹腔から鼠径部皮下へ通じる鼠径管の閉鎖
潜在精巣の診断
生後6か月を過ぎても陰嚢内に精巣が下降してこない場合は潜在精巣と診断します。
犬では例えば生後3,4カ月の時点で下降していないとしても、生後6カ月頃になると降りてきていることもあります。
去勢手術のために生後6カ月頃に動物病院に来院して潜在精巣が判明した場合でも、もう少し待ってみましょうとお話します。
潜在精巣を摘出する場合は余計に皮膚を切開しなければなりません。
正常な位置に精巣が下降して来たら去勢手術の際に1カ所皮膚を切開すれば精巣が摘出できるので、余計な傷を増やさずに済みます。
なのでなるべく自然に下降してくることを願って少し待ってみたりします。
ですが生後1年を経過しても降りてこない場合は、その後も降りてこないことが多いと思います。
潜在精巣は鼠径部にあることが触ってわかることもありますが、触診ではわからないことも多いです。
鼠径部に少し膨らみを感じても、実際はただの脂肪組織であることも。
触診でわからない場合は超音波検査を行います。
それでも腫瘍化していない潜在精巣は、正常な精巣に比べて未発達で小さいため、見つけられないこともあります。
見つけられない場合は二次診療施設で精密検査をすることもあります。
潜在精巣に精子形成はある?
精子の形成には温度が重要なポイントとなっており、温度が高いと精子が形成されません。
陰嚢は薄い伸縮性に富んだ皮膚をしており、皮膚の面積や厚さを変えることで精巣を体温よりも低い温度に調節するという役割を持っています。
潜在精巣は陰嚢内よりも高い温度環境下にあるため、精子は形成されません。
片側が潜在精巣、もう片方が陰嚢にある正常な精巣の場合、正常な精巣では精子が形成されます。
ちょっと脱線しますが、全ての哺乳類に陰嚢があるわけではありません。
例えばゾウには陰嚢がありません。
精巣は体の中、腎臓の近くにあります。
これでは熱で精子が死滅するのでは? と思いますが、ゾウは子孫を残し続けていますね。
私はゾウにはあまり詳しくありませんので詳細は述べませんが、精子を熱から守る遺伝子などが働いていると言われています。とても面白いなと思います。
潜在精巣はホルモンを分泌している?
アンドロジェン(雄性ホルモン)の分泌は正常より少なくなります。
代表的なアンドロジェンとして挙げられるテストステロンは、主として精巣の間質細胞で産生され、精子の形成を促進したり、オスに特徴的な体型の発現、攻撃性の増加、性的刺激に対する反応性を高め、性行動の発現に関与したりします。
潜在精巣の問題点
特に高齢犬の潜在精巣は腫瘍化する確率が10%以上と高いです。陰嚢内精巣の腫瘍化率の10倍以上の確率です。
精巣腫瘍にはセルトリ細胞腫、精上皮腫、間質細胞腫の3種類がありますが、中でも精巣が腹腔内に停留するとセルトリ細胞腫の発生が多いとされています。鼠径部に停留すると精上皮腫が起こりやすいと言われています。
セルトリ細胞腫はリンパ節や他の臓器に転移することがあります。
また、エストロジェンというホルモンが過剰に分泌され、オスなのに乳房が張ってきたり、雌性化という現象が見られます。
さらにエストロジェン過剰分泌による骨髄毒性が生じ、貧血が起こります。
他にも脱毛など様々な症状がみられます。
セルトリ細胞腫になってしまった場合、精巣の摘出だけで済めばいいのですが、もし転移している場合には抗がん剤治療が必要になることがあります。
一方、猫では潜在精巣の発生率が犬より稀と言われ、精巣腫瘍の発生率もそもそも低いです。
ですが私はここ数年のうちに何頭か潜在精巣の猫に遭遇したことがあります。
「猫の潜在精巣は稀」と言われる割にはそんなに稀じゃないような気もしています。増えてる??
私の遭遇した症例はなぜかみんなスコティッシュフォールドだったような気がします。
それでもそんなに症例が多くない上、精巣腫瘍になる確率も少ないと言われている猫ですので、潜在精巣でそれが腫瘍化したという猫の症例には私はまだ出会ったことが無いです。
治療
若齢のうちは特に生活に支障は出ないかもしれませんが、将来腫瘍化する可能性を考慮し、精巣の摘出手術をおすすめします。
腫瘍化していない精巣の場合は摘出してしまえば予後は良好です。
潜在精巣の予防
潜在精巣は遺伝性疾患です。
繁殖に用いることを避けることが予防につながると思います。
可愛いからと言って、潜在精巣の子を繁殖に用いるのは絶対やめましょう。
まとめ
オス犬、オス猫を飼育している方で去勢手術をしていない場合、まずは一度精巣が2つあるか確認してみてください。
尻尾を持ち上げてお尻を見ればすぐにわかると思います。
去勢手術の術前検査の段階で発見されることが多いのですが、特に去勢手術をしていないわんちゃんの場合は腫瘍化して体調が悪くなってから潜在精巣が見つかることもあります。
私も片側の潜在精巣であればふだんの診察の中で見つけることもありますが、両側の潜在精巣の場合は去勢手術を済ませた子と陰嚢部の外見があまり変わらないので見逃してしまうことがあります。
潜在精巣でなくても、とくに高齢の未去勢のわんちゃんを飼育している方は一度精巣の大きさに左右差がないかもチェックしてみてください。
犬は精巣腫瘍が結構多いです。
左右の精巣の大きさに違いがみられる場合は腫瘍化している可能性が高いので動物病院で診察を受けることをおすすめします。
陰嚢内の精巣は腫瘍化したとしても良性の場合が多いですが、腫瘍化している場合は摘出をおすすめします。
早期発見、早期対処で予後は良好です。
コメント