フィラリア症ってどんな病気? 予防が大事なのはなぜ? 

こんにちは。

春と言えば、地域にもよりますが狂犬病予防とともに始まるのがフィラリア症予防です。

この時期は狂犬病予防接種に病院を訪れた際に一緒にフィラリア症予防薬を購入していかれる方は多いです。

今回はフィラリア症について取り上げてみたいと思います。

フィラリア症ってどんな病気?

犬糸状虫(Dirofilaria immitis)(別名:フィラリア)という寄生虫が心臓・肺動脈に感染することによって起こる病気です。

成虫の姿はそーめんに似ています。今そーめん食べてる人すみません。
成虫は雌で長さ25~31cm、雄で12~20cmくらいになります。

少し詳しく解説していきます。

感染環

フィラリア症は蚊が媒介します。

日本では16種の蚊がフィラリアを媒介します。
中でも、トウゴウヤブカ、アカイエカ、ヒトスジシマカ、コガタアカイエカ、キンイロヤブカなどが重要種です。
つまり、ふだん見かける蚊がフィラリアを媒介すると考えていいと思います。

どのように感染が起きるのでしょうか?
文字ばかりで申し訳ないのですが、以下のような流れで感染が回ります。

蚊がフィラリアに感染している犬の血を吸うと、血液中のミクロフィラリアという第一段階のフィラリアの幼虫(第1期幼虫)が蚊の体内に取り込まれます。

蚊に取り込まれた第1期幼虫は、蚊の体内で第3期幼虫まで成長します。

最適な条件下では14~16日で第3期幼虫となります。

その蚊が非感染犬の血を吸います。
その時に蚊の体内から第3期幼虫が非感染犬へ移行します

犬の体内に入った第3期幼虫は脱皮し、2~12日で第4期幼虫になります

その後2か月以上犬の脂肪や筋肉の中を移動し、再脱皮して第5期幼虫になります

つまり感染後約2~3か月で第5期幼虫になります。
この頃になると体長2.5cmにまで成長します。

第5期幼虫は血流にのって心臓、肺動脈へ

そこで成虫に成長し、雄と雌の成虫が交尾することによってミクロフィラリアが生まれます。

感染後からミクロフィラリアを産むようになるまでは約6~7か月です。

ミクロフィラリアは全身の血液中を循環します。

ミクロフィラリアは蚊に吸血され、非感染犬へと広がっていきます。

ちなみにフィラリア成虫の寿命は5~7年とのことです。

症状

咳、呼吸困難、体重減少、喀血、腹水、失神などの症状があらわれます。

治療しなければ死亡することがあります

 
フィラリア症の重症度

 軽度…無症状あるいは軽い咳

 中等度…無症状あるいは咳、元気低下、運動不耐性

 重度…咳、元気低下、呼吸困難、失神、腹水貯留

 超重度…大静脈症候群

※大静脈症候群とは
急性犬糸状虫症とも言われます。
目立つ症状が無いまま、可視粘膜蒼白、呼吸困難、不整脈、黄疸、血尿などを突然発症します。
数日~1週間以内に死亡することが多い重篤な状態です。

 

治療

外科治療と内科治療があります。

外科的な治療としては特殊な鉗子を使って心臓・肺に寄生する成虫をつまみあげるという方法です。

内科的にはメラルソミンというヒ素を含んだお薬で成虫を駆虫する方法があります。

ですが、成虫は血管の中に寄生しているため、駆虫すると死んだ虫体で血管がつまり、感染している犬がショックを起こして死亡する危険があります。
最近この方法はあまり行われていないように思います。
私も成虫駆虫薬は使用したことが無いので詳しいことは割愛させていただきます。

代わりの方法として、フィラリア予防薬を毎月投与することで駆虫する方法があります。
幼虫であればこの方法で駆除できます。
成虫の駆除は困難で、予防薬の投与を数年続けます。

フィラリアの寄生により咳など症状が出ている場合は血管拡張薬や利尿剤を使用します。

子供の頃に世話していた犬が心不全で肺水腫を起こしていました。
当時獣医さんが「この子は過去にフィラリアに感染してるからね」と言っていた記憶があります。
一度寄生すると肺などにダメージが残ってしまうようなので、そういったことからも症状が出やすかったのかもしれません。
実際にどのくらいフィラリアが影響していたかは不明です。

成虫まで成長させてしまうと治療が大変ですし、ダメージも残ります。
予防がとても重要であることがわかっていただけたでしょうか?

次に予防薬についてお話します。



フィラリア症予防薬

フィラリアの幼虫を駆虫するお薬を投薬します。
感染しても血管に入る前に駆除してしまおうという考え方です。

予防薬の剤形には経口薬、首の後ろの皮膚に垂らす滴下薬、注射薬があります。

経口薬を使っている方が多いように思います。

薬を食べてくれない!という子には滴下薬や注射薬がおすすめです。

また、経口薬と滴下薬は1か月に1回投与しなければいけませんが、注射薬は一回うてば1年効果が持続します。
投薬をつい忘れてしまうという場合にもおすすめです。
ただし、効果はフィラリア限定です。

近年特にマダニ予防の意識が上がってきており、フィラリアと一緒にノミ・マダニの駆虫薬を投与している方は多いです。
ノミ・マダニ駆除の注射薬は無いので、結局そのお薬を毎月投薬しなければならず、フィラリアを注射薬に変えても毎月投薬するという手間は変わらないかもしれません。
けれど、フィラリアは一度成虫が寄生すると駆除が大変です。予防がとても大事です。
ノミ・マダニは寄生しても比較的簡単に駆除ができ、投与を忘れてもそこまで一大事にはならないかもしれません。
後ほど述べますが、フィラリア予防を怠ると、再度投薬を開始するために血液検査が必要になる場合があります。
色々と面倒なので、フィラリアだけでも忘れないように注射薬にしておくメリットはあると思います。

それに、フィラリア注射は1年効果が持続するので、狂犬病予防接種と時期をずらしてうつことができれば、春の混雑した動物病院へ行かなくて済むかもしれません。

どういうお薬を取り扱っているかは動物病院によって違うと思いますし、特にフィラリアの注射薬は在庫を置く期間が限定されている可能性があります。
かかりつけの動物病院に問い合わせてみてください。

注射薬は体重で投与量を決めるのですが、成長期は体重が大きく変化するためおすすめしません。
体重の変化を見ながら経口薬か滴下薬を使用し、注射薬にする場合は翌年からがいいでしょう。

予防薬の例

商品名成分名効果
ミルベマイシンA ミルベマイシンオキシム犬糸状虫、犬回虫、犬鉤虫、犬鞭虫
カルドメックチュアブルPイベルメクチン、
ピランテルパモ酸塩
犬糸状虫、犬回虫、犬鉤虫
アドボケート
滴下薬)
イミダクロプリド、
モキシデクチン
犬糸状虫、イヌニキビダニ、イヌセンコウヒゼンダニ、ノミ、犬回虫、犬鉤虫
レボリューションセラメクチン犬糸状虫、ノミ、ミミヒゼンダニ
ネクスガードスペクトラ アフォキソラネル、
ミルベマイシンオキシム
犬糸状虫、ノミ、マダニ、犬回虫、犬小回虫、犬鉤虫、犬鞭虫
モキシハートタブ、モキシガードモキシデクチン犬糸状虫
シンパリカトリオサロラネル、モキシデクチン、ピランテル犬糸状虫、ノミ、マダニ、犬回虫、犬小回虫、犬鉤虫
プロハート注12
(注射薬)
モキシデクチン犬糸状虫

近年人気があるのは1剤でノミ、マダニ、フィラリア等が駆除できるオールインワンタイプのお薬です。
上記の表で言うと、ネクスガードスペクトラ、シンパリカトリオがそれにあたります。

SFTS(重症熱性血小板減少症候群)がニュースで話題になってから、マダニ駆除効果が含まれているお薬を選択する方が多いと感じます。

予防前の検査

予防薬と言っても、フィラリアが体内に侵入するのを防いでくれる薬ではありません

幼虫の段階で駆虫し、成虫へ成長させないようにするという仕組みで予防薬と言われています
1か月に一度、まとめて感染した幼虫を駆虫しておくという感じです。

そのため、予防薬を投与する前にもしも重度に幼虫が寄生していたら、その幼虫が血管につまってしまい、犬がショックを起こしてしまいます
そうならないために、予防薬を始める前には抗原検査を受けてフィラリアに感染していないか確認しておく必要があります

これは動物病院によって違うのですが、毎年薬の投与を始める際に検査を実施している病院もあれば、前年の予防がしっかりできていれば感染はしていないはずなので、必ずしも検査を必要としない病院もあります。

予防しているつもりでも、実は後から犬がこっそり予防薬を吐き出していたり、飼い主さんがうっかり投与し忘れていたり、なんてこともあると思いますので、毎年検査をしておいた方が無難かもしれません。
抗原検査は血液を少量採り、5~10分くらいで結果が出ます。
お住まいの地域のフィラリア発生状況や飼育状況(外飼いか室内飼いか)によっても考えが変わってくると思います。
毎年しっかり予防していて感染している確率が低いと考えられても、数年に一度は検査してみるのが良いと思います。
例えば健康診断で採血する機会があるなら一緒に調べてみても良いかもしれません。

予防期間

蚊が媒介する感染症なので、蚊の発生時期によります

これは地域によって差がありますよね。

関東なら4月下旬か5月上旬~11月下旬か12月上旬くらいです。

要は、蚊を見かけるようになったら1か月以内に予防を開始し、蚊を見なくなってから1か月後までは駆虫してください

もし早めに予防を終わりにしてしまったり、間が抜けてしまったなど、予防が不完全になってしまった場合は、翌年駆虫薬を投与する前に必ずフィラリアに感染していないか検査をうけてください

私が働いている地域は予防されている方が多く、予防していれば感染源となる犬も減ります。
それにより新たに感染する犬も少ないです。
フィラリア陽性の子をたまに見かけますが、外飼いの犬だったり、保護犬が多いように思います。

コリー種とイベルメクチン中毒

コリーとその近縁種は、フィラリア予防薬として使われているお薬の中で、イベルメクチンやミルベマイシン(アベルメクチン系薬剤)に比較的高い感受性を示すことが知られています。
つまり、中毒を起こすことがあります。

少々難しい話になるのですが、なるべく簡単に説明します。

イベルメクチンなどを投与すると、薬の成分は血液中を循環し、脳へも流れて行きます。

脳には血液脳関門というバリアが存在しています。

血液脳関門にP糖タンパク質という特殊なタンパクがあり、薬物が血液中から脳組織中へ移行するのを阻止しています。

しかしコリー種では、MDR1遺伝子というP糖タンパク質をコードしている遺伝子が変異していることがあり、血液脳関門におけるのP糖タンパクのメカニズムが欠損していることがあります。

その場合はイベルメクチンが血液中から脳へ移行しやすいため、中毒を起こす可能性があるというわけです。
中毒を起こすかどうかは投与量にもよります。

MDR1遺伝子に変異を持たない個体や変異のキャリア(ヘテロ)である個体は副作用を示しません

心配な場合は遺伝子検査をしてみるといいかもしれません。

投与から8時間以内に中毒症状が発現する可能性があるので、特に初めて投与する際は投与後8時間はあまり目を離さない方がいいかもしれません。

症状としては鎮静、ふらつき、嘔吐、流涎など。
投与量が多いと昏睡。

ふだん動物病院で働いていて、この中毒症状を頻繁に目にするかといわれると、見ないです。

犬のフィラリア予防を目的とした投与量ではそこまで高濃度になることは無いかもしれません。
間違って犬に牛用のイベルメクチンを投与してしまった!!とか、フィラリア予防以外の目的で多く投与してしまった!とか、そういう場合は危険かもしれません。

注意していきたいと思います。

注意したい犬種
コリー
ボーダーコリー
シェットランドシープドッグ
オールドイングリッシュシープドッグ
オーストラリアンシェパード
イングリッシュシェパード
ジャーマンシェパード
ホワイトスイスシェパード

よくある質問

投与後に吐いてしまった。再度投与するべきか?

経口投与薬を飲ませた後に吐いてしまったが、また投与した方がいいですか?と電話をいただくことがあります。

投与直後に吐いて飲ませた薬剤が丸々出てきたら再度飲ませてください。

例えば2時間後吐いて薬が丸々出てきたなら、それも再投与してください。

2時間後に吐いたが、薬は出てきていないということであれば、すでに薬は吸収されていると考えられます。
再投与の必要はないでしょう。

体調が悪いが投与してもいいか?

これは色々なパターンがあると思うので、かかりつけの獣医師と相談してください。

フィラリア予防薬の投与予定日にたまたま体調が悪く(下痢してる、嘔吐してる、食欲が無い、元気がない等)、その体調が数日で戻る可能性があるなら、体調が戻ってから投与したらいいと思います。
少しくらいなら投与日がずれても問題ないです。

慢性的に肝臓が悪いが投与するべきか?

悪い程度にもよると思いますが、フィラリア予防薬は月に1回だけのものなので、少し肝臓が悪いくらいならフィラリア予防薬を飲ませないよりは飲ませた方がメリットは大きいのかなと思います。
しかし、重度の肝不全の場合は、薬は肝臓で代謝されるので、薬の代謝がうまくできない可能性を考えて投与はおすすめしないです。
重度な場合はフィラリア薬の投与どころではなく、そもそも食欲も無いと思いますが…。
ぜひ薬よりもご飯を食べさせることを優先させてください。

住んでいる環境を考慮するのもいいと思います。
極端な話ですが、タワーマンションの上層階に住んでおり、家から全く出ませんという場合が実際にありました。
フィラリアに感染する可能性はゼロではありませんが、低いと思います。
体調に不安があるなら無理して投与しなくていいと思います。

逆に蚊の多い環境に住んでいて、フィラリアに感染するリスクが高い場合は、投与をおすすめします。色々なパターンがあると思うので、かかりつけの獣医師と相談するのが一番です。

人も蚊に刺されるけど、フィラリア予防しなくていいの?


フィラリアは最初に書きましたが糸状虫という名前ですよね。
宿主は主に食肉目の哺乳類、特にイヌ科動物です。
蚊に刺されると人の体内にも侵入はします。
しかし、発育するには環境が合わずたいてい消えていきます。
それゆえ滅多に問題になることはないですが、絶対ではないです。
犬の予防をしっかり行っていけば、人の予防にも繋がると思います。

ちなみにフィラリアにも種類があり、特に海外が多いと思いますが、熱帯地域で同じように蚊が媒介して人に糸状虫が寄生して問題となることがあります。
地球温暖化で今後日本でも人の糸状虫症が問題となる日が来るかもしれませんね。
蚊に刺されないように注意しましょう。

昨年の薬が余っていて、使用期限が切れていないから使っていいよね?

ちょっと待ってください!
余っているということは、昨年投薬を忘れた月があったり、早めに予防を終了していませんか?
その場合は予防薬を投与する前に、抗原検査をおすすめします。
すでにお話した通り、昨年の予防が不完全でフィラリアに感染していた場合、投薬することで犬の具合が悪くなるかもしれません。
使用期限が切れていないのであれば、お薬自体は使えますが、先に検査を受けに行きましょう。

また、使わなくなった薬をお友達にあげるという方もいると思います。
体重が同じくらいの子であれば使用できるかもしれませんが、そのお友達の犬がフィラリアに感染していないかどうか、確認してから投薬してね!と一言付け加えてあげると親切かなと思います。

フィラリア症については書いておきたいことが多く、今後も少しずつ情報を追加していきたいと思っています。
ひとまずこの辺で終わりにしたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。

参考文献

・『動物病院スタッフのための犬と猫の感染症ガイド』、緑書房
・『獣医学教育モデルコアカリキュラム準拠 寄生虫病学』、緑書房
・『イヌ・ネコ家庭動物の医学大百科』、ピエ・ブックス
・『プラクティカル動物薬理学』、インターズー
・『犬・ネコ・エキゾチックペットの寄生虫ビジュアルガイド』、インターズー

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