妊娠中は猫を触らない方がいいって本当? トキソプラズマ症

「妊娠中は猫を触らない方がいい」という話を聞いたことがありませんか?

これは正しくもあり、間違いでもあります。

時々動物病院にも「猫を飼っているけど妊娠中に一緒にいて大丈夫か?」などの問い合わせがあったりします。

この話にはトキソプラズマ症という寄生虫が原因となる疾患が関係しているのですが、聞いたことがありますか?

トキソプラズマ症とはどんな病気なのでしょう?

妊娠中の人と猫とトキソプラズマの関係とは。

本日はトキソプラズマ症についてお話します。

正しい知識を持って猫と接して欲しいと思います。

トキソプラズマとは

トキソプラズマ症はトキソプラズマ(Toxoplasma gondii)という原虫が引き起こす感染症です。

トキソプラズマの生態に迫ってみましょう。

トキソプラズマの宿主

トキソプラズマ原虫の終宿主はネコ科動物です。そのため猫の話が出てくる訳です。

※終宿主とは、最終的に成虫が虫卵(トキソプラズマの場合は虫卵ではなくオーシストという虫卵みたいなもの)を排泄することができる宿主のことです。

そして、ほとんどの哺乳類と鳥類が中間宿主になります。

猫は中間宿主にもなります。人も中間宿主です。宿主域はとても広いと言えます。

※中間宿主というのは終宿主に至るまでに通る間の宿主です。そこで虫卵を排泄することはできません。

トキソプラズマの生活環

※ちょっと専門的な知識が入ってきます。トキソプラズマについて大まかに知れればいいという方は流し読みを。

猫(終宿主)が中間宿主の肉を食べることで、トキソプラズマは猫の小腸下部の粘膜で有性生殖を行い、オーシストが猫の糞便中に排泄されます。

オーシストは排泄された直後は感染性がありません(未成熟オーシスト)が、外界で発育し、24〜72時間で中に2個のスポロシストと各スポロシストの中に4つのスポロゾイトを形成し、感染性を持ったオーシストになります(成熟オーシスト)。
※糞便は早く片付けましょう!!

中間宿主が成熟オーシストを経口摂取すると、オーシストの中からスポロゾイトが出てきて小腸粘膜に侵入します。

その後タキゾイトとなって血流を介して全身の臓器に広がり増殖します。

しかし宿主の免疫ができると増殖は抑制され、免疫反応が作用しにくい脳や筋肉にシストを形成して潜伏感染し、終宿主に食べられるのを待ちます。

また、タキゾイトは胎盤を通って母子感染することがあります。

トキソプラズマの分布

トキソプラズマは日本を含め、世界中に広く分布しています。

トキソプラズマに感染した猫の症状

終宿主となった猫は不顕性感染が多いです。

つまり感染していても症状が出ません

小腸に寄生するので下痢を起こすことがあるようですが、自然に治ってしまうくらいのレベルのようで下痢からトキソプラズマを疑うことはあまりありません。

中間宿主になった場合はシストが形成される影響で発熱、食欲不振、脳炎、肺炎など寄生部位によって様々な症状を起こす可能性がありますが、ただ免疫機能が正常な猫の場合はあまり症状を出さず、子猫や免疫不全の猫で症状が見られることがあります。

家の猫がトキソプラズマを持っているかどうかは見た目だけでは判断が難しいです。

トキソプラズマに感染した人の症状

健康な人がトキソプラズマに感染しても特に症状は出ません。

免疫不全の人が感染すると、脳炎や肺炎、心筋炎、脈絡網膜炎などを起こします。

そしてここが本題なのですが、妊娠中に母親が初めてトキソプラズマに感染すると胎児に感染して流産を起こしたり、流産を免れたとしても、出生後に水頭症、脳内石灰化、脈絡網膜炎など脳や目に障害を持ってしまうことがあります

妊娠末期になるほど感染率は上昇しますが、妊娠初期の感染ほど重症化しやすいです。

妊娠前にすでにトキソプラズマ感染している場合はあまり問題になることはありません。

どうすれば感染しているかわかる?

トキソプラズマ原虫を検出する、血清中の抗体価を測定する(ラテックス凝集反応、ELISA法など)、糞便中のオーシストを検出するなどで診断します。

予防法

予防薬やワクチンはありません。

人は妊娠中に感染しないように特に気をつけましょう。

また、飼い猫もなるべく感染しないように気をつけましょう。

妊娠したからと言って飼い猫を手放す必要は無いと思います。

正しく知識を身に付けてトキソプラズマ症を防いでいきましょう。

具体的にどう気をつければいいのでしょうか。

~猫に対して~
・飼い猫が感染しているか調べる
・猫の糞便は早く(24時間以内に)片付ける(成熟オーシストになる前に片付けてしまいましょう!)
・獣の生肉を与えないようにする
・外で小鳥やネズミを捕食させない(猫は室内飼いにする)
・他の猫の糞便に触れないようにする

~妊娠中の人、これから妊娠予定の人~
・自分が感染しているか調べる(すでに感染しているか、そうでないかで対策が変わってきます。)
・飼い猫が感染している場合は糞便の処理はなるべく他の家族にやってもらう
・外で土を触ったりしたら野良猫の糞便に接触している可能性を考えてしっかり手を洗う
・食肉は加熱してから食べる
・野菜はよく洗ってから調理する。調理後は調理器具と手を洗う

以前は豚肉を生で食べるなどしてトキソプラズマに感染することがありましたが、現在では食肉の衛生管理が徹底されており、と畜場でもトキソプラズマが見つかることは少ないそうです。
だからといって豚肉を生で食べるのは避けておきましょう。
新鮮だからこそ危ないこともあります。

治療法

終宿主になっている猫に対しては消化管に寄生しているトキソプラズマをサルファ剤などの薬を用いて駆除します。

しかし、全身感染してしまっている場合は駆虫が難しいです。
例えば目に寄生している場合は駆虫薬を投与しても効果は少ないです。

ですが症状が無い場合は治療しません。

症状を出している猫は免疫に異常が出る基礎疾患を持っているため、そちらの治療も必要になります。

まとめ

妊娠中だからと言って必ずしも猫を避ける必要はありません。

ただし、自分がトキソプラズマ陰性の場合、妊娠中に感染してしまうと危険ですので、オーシストを口に入れないように気をつける必要があります。

日本では1~2割の人が知らないうちにトキソプラズマに感染していると言われています。

すでに感染している場合はその後に妊娠しても胎児に影響は出ません。

妊娠予定のある方は一度自分が感染しているのかどうか調べておくといいでしょう。

一方、猫の方も必ずしもトキソプラズマを持っているわけではありません。

終宿主として糞便中にオーシストを排泄している飼い猫は結構少ないと思います。

ふだん飼い猫たちの糞便検査をしていてトキソプラズマに関わらずオーシストを見ることはありますが、そこまで頻繁ではありません。

過剰に怖がる必要はないですが、妊娠中の未感染の方は気をつける必要があります。

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