三毛猫のオスが少ないのはなぜ? 毛色を決める遺伝子の話

タイトルの通り、三毛猫にはほとんどオスがいません。

私も今までの人生で1匹しか見たことがありません。

それも獣医師になってからの話ではなく、小学校の時に友人の家で飼われていた猫が三毛猫のオスでした。

動物病院で働いているとたくさんの猫と出会いますが、それでも1匹もお目にかかれないほどの激レア猫です。

ポケモンでいうと伝説のポケモン並みか、それ以上にレアなんじゃないかと思います。

どうしてそんなに少ないのでしょうか。

今回は猫の毛色を決める遺伝子のお話をします。

遺伝というと、高校の生物でメンデルの法則について学んだという方もいらっしゃると思います。

今回のお話にも、このメンデルの法則が少し関係してきますので、知らないという方のためにちょこっと説明します。

メンデルの遺伝の法則

昔、メンデルという人が3つの遺伝の法則を発見しました。

細かいことを言うと、はじめはメンデルの考えは受け入れられず、彼の死後に3人の研究者によってメンデルの遺伝の法則が再発見されて業績が認められたのでした。
3人の研究者…コレンス、チェルマク、ド=フリース
大学受験の時に勉強したのが懐かしいです。
生物は物凄く細かいところまで暗記させられました…。

はい、脱線しましたが、このメンデルの3つの法則というのが、

・優性の法則

・分離の法則

・独立の法則

というものでした。

同時にはありえない対立する形質をもつ親から生まれた子は、どちらか一方の形質のみが発現します。

現れる形質を優性、現れない形質を劣性と呼びます。

と、説明されてもよくわからないかもしれません。


メンデルの実験を例にあげてみます。

種の形が丸いエンドウ(RR)種の形がシワのエンドウ(rr)があります。

このふたつを交配すると、雑種第一代(F1といいます)では、種が丸いエンドウ(Rr)が誕生しました。

つまり、種を丸くする遺伝子(R)が優性遺伝子シワにする遺伝子(r)が劣性遺伝子です。

このように、どちらか一方の形質しか現れません。

これを優性の法則と言います。

優性遺伝子は大文字、劣性遺伝子は小文字で表します

では、F1であるRr同士を交配した場合はどうなるでしょう。

体細胞中ではRrで対になっている遺伝子ですが、Rとrは別々の配偶子(精子・卵子)に分配されて、受精の際に再び対になります。

これを独立の法則と言います。

Rr×Rr

 
RRRr
Rrrr

第二世代(F2)では3つの組み合わせが生まれました。

RR:Rr:rr=1:2:1

Rが優性ですので、Rが一つでも入っていれば種子は丸くなります。
つまり丸い種子:シワの種子=3:1となります。


ここで一つ用語の説明をしておきます。

RRやrrのように、対立遺伝子が同じ構成の個体をホモ接合体といいます。

Rrのように、対立遺伝子が異なる構成の個体はヘテロ接合体といいます。


では、レベルアップしてもう一種類遺伝子を登場させます。

種の色を黄色くする遺伝子(Y)、緑色にする遺伝子(y)

丸く黄色い種を持つエンドウ(RRYY)シワで緑色の種を持つエンドウ(rryy)を交配してみるとします。

生まれてくるF1はRrYy丸く黄色い種を持つエンドウです。

ではF2はどうなるでしょう。

この時に、2対の対立遺伝子は、それぞれ独立して配偶子に分配されます

これを独立の法則と言います。表であらわすと以下のようになります。

 RYRyrYry
RYRRYYRRYyRrYYRrYy
RyRRYyRRyyRrYyRryy
rYRrYyRrYyrrYYrrYy
ryRrYyRryyrrYyrryy

ちなみに結果は丸黄:丸緑:シワ黄:シワ緑=9:3:3:1となります。

前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。

猫の毛色の話に戻りましょう。

まずは今回の話に関係する猫の毛色を決める主な遺伝子を紹介します。

猫の毛を決める遺伝子

W遺伝子

全ての毛の色を白色にする働きがあります。

Wは大文字で書いています。

全身白色にする遺伝子は優性ということですね。

つまり、WWやWwを持つ猫は全身白毛になるという訳です。

毛色に関する遺伝子は10種類知られていますが、W遺伝子は中でも最も強力に働く遺伝子です。

逆に言うと、白以外の毛色を発現させるためには、wwである必要があるということです。

また、遺伝子型がWWであれば眼の色が黄色から青色に変わり、時には左右で色が異なるオッドアイとなります。

これらの猫はどちらかの耳が聞こえない場合が多いことが知られています。

W遺伝子には内耳の聴細胞の発育を不全にする働きがあると考えられています。


S遺伝子

S遺伝子は体の一部だけにブチ(白い毛)を生じさせます

SSでは白の範囲が広くなり、Ssでは白の入る範囲がそれより狭くなるそうです。

ssになるとブチが現れません。


A遺伝子

アグチ毛を発現する遺伝子です。

アグチ毛とは、1本の毛でも根元と先端は黒色だが真ん中は茶色をしている毛をいいます。

アメリカ大陸に生息するアグーチという齧歯目の動物が名前の由来となっています。

猫以外にもタヌキ、ハクビシンなど様々な動物がアグチ毛を持っています。

AAやAaの時にアグチ毛となります。

劣性ホモ接合体aaの場合は毛を黒色にします。

ただし、W遺伝子やO遺伝子の方が働きが強いので、実際は黒くならないこともあります。



O遺伝子

毛色を茶色にする働きを持つ遺伝子です。

OOで毛色が茶色になります。

Ooでは体表の一部にはOが働いて茶色になり、他の部分にはoが働きます。

oには毛色を決める働きが無いので、例えばaaなら黒毛、AAやAaならアグチ毛になります。

ooの組み合わせの場合は茶色は発現せず、他の遺伝子の影響によって毛色が決まります。



T遺伝子

シマ模様を作る遺伝子です。

ただ、シマ模様と言ってもアメリカンショートヘアのような太いシマを持つ子もいますし、スポッテッドタビーといって斑点のようなシマを持つ子もいます。

T遺伝子の中でも種類があります。ひとまず今回は割愛します。

D遺伝子

D遺伝子には毛の色素全体を濃くする働きがあります。

ddになると毛の色素が薄くなります

C遺伝子

体全体に毛の色素を作ります

ccの組み合わせで体の一部分に色素をつくります。

シャムネコのように体の先端部分だけ色がついているような場合にはこの遺伝子が関係しています。


L遺伝子

短毛か長毛を決める遺伝子です。

L遺伝子は毛を短くする働きがあります。

つまり、短毛が優性形質ということですね。

llの組み合わせで長毛となります。

三毛猫のオスの遺伝子

今回のメインのお話にはO遺伝子が深く関係しています。

このO遺伝子は他の遺伝子と異なり、性染色体に存在しています。

性染色体は性別を決める遺伝子です。

性染色体にはXとYがあり、この組み合わせで、オスが生まれるか、メスが生まれるかが決まります。

XXでメス、XYでオスになります。

O遺伝子はX染色体に存在しており、X染色体を2つ持つメスのみが、O遺伝子を2つもつことができます。

Xを一つしか持たないオスはOもしくはoどちらか一方しか持つことができません。

先に言うと、三毛猫になるためには、ww,Oo,SS(もしくはSs)の遺伝型である必要があります

お気づきですか?

X染色体を1つしか持たないオスは必然的にww,Oo,SS(Ss)の遺伝型になることができないのです。

従って、三毛猫にはオスが生まれないということです。

ちなみにサビ猫も同じくメスしか生まれません。

いやいや、でも実際に三毛猫のオスは少ないけど存在するってさっき言ってたやん。
って思いますよね。

はい、そうです。存在します。

どういう理由かと言いますと、これには2つの可能性があります。

一つ目は、性染色体の異常で、遺伝子型がXXYの3本の場合です。

これはクラインフェルター症候群として知られています。

三毛猫のオスはほとんどがこのXXY型のようです。

もう一つは、XYという染色体の組み合わせですが、X染色体の一部が重複してOとoを両方持つ場合です。

どちらにしてもこのような染色体異常を起こした場合には生殖能力を欠きます

希少なら繁殖させて・・・と考える人もいるかもしれませんが、三毛猫のオスの繁殖はできないので数が少ないままというわけです。


毛色と遺伝子型の例


せっかくなので、猫の毛色を見ながら遺伝子型を判定してみましょう。

メスの場合で表します。オスはOを一つ減らして考えてください。

白猫 W‐L-
(-の部分はホモでもヘテロでもOK)



茶白wwOOC-D-S-T-L-

キジ白 wwooA-C-D-S-T-L-


キジ三毛 wwOoA-C-D-S-T-L-

黒白  wwooaaC-D-S-L-

黒三毛 wwOoaaC-D-S-T-L-

茶トラ wwOOC-D-ssT-L-


キジ wwooA-C‐D-ssT‐L‐

サビ wwOoaaC-D-ssT-L-

黒 wwooaaC-D-ssL-

灰色 wwooaaC-ddssL-

いかがでしたでしょうか。
猫を見たときに遺伝子型を予想してみるのも楽しいかもしれないです。
これからは猫を見る目が変わるかもしれないですね。

毛色クイズ


では、最後にクイズを出します。

Q1 白黒♀(aaSS)と黒♂(aass)を交配させたとします。
  どんな毛色の子猫が生まれてきますか?

A.みんな白黒になる

卵子(aS)×精子(as)→受精卵(aaSs)→表現型は白黒

Q2 キジトラ(Aass)同士を交配させたらどんな毛色の子猫が生まれるでしょう?

A.キジトラか黒

表にしてみます。メンデルの遺伝の法則を思い出してください。

Asas
AsAAssAass
asAassaass

遺伝子型はAAss、Aass、aassの3種類です。
表現型はキジトラ=3:1となります。

今回はこのへんにしておきます。

ところどころ省略して説明しているので、もっと詳しく知りたいという方のために最後におすすめの資料を載せておきます。

『ネコもよう図鑑 色や柄がちがうのはニャンで?』、浅羽宏著、化学同人

『イラストでみる猫学』、林良博監修、講談社

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